研究課題
本研究の目的は、現代アボリジニ社会における知識・情報の分布・継承の様態について、先住民土地権の制度化(1977年、北部準州土地権利法の運用、1994年、先住民土地権原法の施行)という状況に応じて新たに生じつつある動向に注意しつつ、民族誌的な記述と分析を試みることである。平成8年度は、前年度に引き続き、国立民族学博物館所蔵の木皮画資料250点の内100点を選んで各自が現地に持込み、そこに描かれている神話の語りを聞き取る調査を行った。先住民原法の施行、エコツアー・エスニックツアーなどの観光開発や土産芸術品生産へのアボリジニ自身の積極的関与、部族意識と個人意識の乖離、など様々な状況を反映して、神話の個々の語りに変化のきざしが見られ、また地域固有の神話の特徴を融合した神話が創り出されてグローバル化する、といった現象も各地に起こっている。さらに、太陽光発電装置や通信衛星を使った電話網がブッシュ内の村々にも行き渡るなど、生活インフラとともに情報インフラの変化もめざましく、インターネットを始めとするコンピュータ化がアボリジニ・コミュニティにも広がり始めるという、数年前には予想だにしなかった状況が急速に進行している。これに伴って、アボリジニ自身のコミュニケーションがグローバル化し、また同時に、遠隔地域に住む人々を結んだ新たなコミュニティ意識の芽生えなど、極めて興味深い現象も生じつつある。このように大きく変化しつつある状況の中で、神話がどのように継承されていくのかを現在追跡することの重要性はますます高まっていると言える。今年度の調査では、現地でのオーラルな語りとしての神話だけでなく、アボリジニ・テーマパークでの語り、インターネット上での語り、など、多面的な語りの収集に努めており、現在、それら相互の関係を明らかにし、変化の方向を探るべく、分析を進めている。それと同時に、前年度から開始した木皮画データベースの構築を引き続き進めている。
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