研究分担者 |
高井 康弘 大谷大学, 文学部, 助教授 (00216607)
藤井 勝 神戸大学, 文学部, 助教授 (20165343)
松薗 祐子 いわき明星大学, 人文学部, 助教授 (00164799)
竹内 隆夫 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (40105747)
北原 淳 神戸大学, 文学部, 教授 (30107916)
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研究概要 |
1.東北タイの典型的貧村であるノーンクン村では、押し寄せる商品経済に様々な形での対応を迫られている。農業では本来自給用のモチ米栽培に加えて、現金収入を得るためウルチ米の裁培を開始している。彼らにとって大きな現金収入源であった出稼ぎは減少の方向にあり、それに代わって農業日雇い(賃労働)の定着化やアヒル羽根の加工売買業と縫製業のような自営業が元気である。そして、農村と都市のネットワークはあらゆるレベルで強化されつつある。もはやノーンクン村は従来のように自分を自分で律することが困難になってきており、今後は少なくともタムボンのレベルでの動きが重要になってくるのではなかろうか。 2.もともと中部タイの典型的米作農村であったランレーム村の場合は、この15年間に米作を棄てていったことによる村落社会構造への影響が議論になっている。通勤圏内への近代工場の進出、種々の農村インフォーマルセクター誕生と活性化が農業に代わる就労機会を増加させている。そして、生活スタイルの世代間関孫、人口流入が生み出す草分けの系譜と新参者の関係、さらには複雑な階層化の進行が存在する一方で、宗教活動も多様化しつつあることは、変動がいかに大きかったかを物語っているのではなかろうか。もはや農村とは呼べなくなりつつあるランレーム村の変動が1980年代後半以降のタイ経済の急成長がもたらしたものとすれば、その詳細な検討はアジア農村の変動論に寄与することになるであろう。 近い将来研究成果をとりまとめ、出版する計画である。 今回の2つの村における再調査プロジェクトは順調に終了した。これからは、15年前の調査データとの比較研究にとりかかり,村落の変容を検討することになる。現時点での成果概要は次の通りである。 1 東北タイのノーンクン村では,15年前と簡単に比較すれば,所帯数の増加,家族規模の縮小,村内婚の減少,高床式家屋の減少,個人的土地所有意識の明確化などが目立った。また,伝統的労働交換の慣行がすたれ,日層い雇用が一般化しつつある。電化後の生活様式の変化は現金支出を増加させ,ほとんどの所帯で政府機関である農業農協銀行からの借金が急速に増加してきている。ただ,少数だが,縫製業やアヒルの羽毛収集業などを営む者もでてきている。アニミズム信仰は以前として根強く残っており,モータムも繁盛している。加えて,行政の広域化が進みつつあり,村落の自律性が低下し伝統的村落が壊れつつある。 2 中部タイのランレーム村では,ここでも家族規模の縮小傾向がみられるが,15年前に確認できた「屋敷地共住集団」はまだ残存している。大きな変化は,稲作農家の大幅な減少で,わずか20所帯程度を残すだけである。稲作をすてた農村がどう変化するかの見本になり得る。多くが農外就労を求め、賃労働者化し始めている。通勤圏内に工場が建設され始めたのが大きな理由である。また、家内工業への従事も見受けられる。いずれにせよ,稲作農家の激減は,タイ農業の将来を案じさせる。寺院は基本的には村人の宗教生活の中心ではあるが,興味深いことに、19名(男1,女18)もの依与が存在している。急速な社会変動とおそらくは関係しているのであろう。 この2つの異なったタイプの農村の変容をより詳細に比較分析し,経済発展との関係を理論つけたい。
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