研究概要 |
牛由来Theileria Parvaのシゾント感染リンパ球株樹立と性状解析(主にザンビア大学、国際家畜研究所との共同調査・研究) ザンビア国内5地域の農場に飼育されていた東海岸熱(ECF)罹患牛から試料を得て原虫株分離を試みた結果、中部州(Kabwe)農場の2検体からシゾント感染細胞が樹立できた。これら2株をケニア(IRLI)に搬入し、Southern Provinceから既に樹立されていた株(Mazabuka株)と合わせDNAプローブによるサザンブロット解析ならびにモノクローナル抗体による間接蛍光抗体法により性状検索を行った。Mazabuka株は、その免疫学的、遺伝学的性状がケニアの牛から分離されたMuguga株(いわゆるT.parva parva)のそれと極めて類似しているが、既知のアフリカバッファロ-由来の原虫型(いわゆるT.parva lawrencei)とは明らかに異なっていることが明らかとなった。このことから,ザンビアの中部/南部州に存在するT.parvaは、牛間で伝播する原虫と考えられた。さらに、中部/南部州由来株と東部州由来株とは明らかに諸性状を異にしていることも明らかにできた(Nambota et al,1996)。また、ピロプラズマとシゾントステージに発現される表面蛋白質(p32およびPIM)遺伝子の解析をPCR-RFLPで行った結果からも、以上の成績が裏付けられた。 T.parva以外の野生動物由来タイレリア・バベシアの比較(主に南ア獣医学研究所との共同調査・研究) (1)アフリカバッファロ-由来原虫種の遺伝子解析 前年度南アのバッファロ-から得られた原虫DNA試料から、rRNA遺伝子ならびに主要ピロプラズマ表面蛋白質(p32)遺伝子をPCRにより増幅し、その塩基配列を決定した。rRNA遺伝子解析の結果から、バッファロ-血液試料中には、T.parva以外に少なくとも3種のタイレリアの存在が確認された。それらのうち1種は、牛由来良性タイレリア種(T.buffeli)と同一であり、牛-バッファロ-間の感染が成立しているものと考えられた。他2種はバッファロ-固有種と考えられ、牛との間での感染の成立はないと考えられた。それらのうち、1種のrRNA遺伝子塩基配列は既知のタイレリアのそれとは全く異なっており、新種と考えられた。また、バッファロ-固有種の主要ピロプラズマ表面蛋白質(p32)の遺伝子解析から、本種はアジアで見られる牛寄生性良性タイレリアの一群とはやや遺伝学的に離れたところに位置づけられた(角田ら、投稿中),ザンビアで採取したバッファロ-血液DNAからは既存のプライマーによるPCRでは増幅産物は得られなかった。 (2)その他の動物における原虫感染状況の調査 タイレリア感染の見られたセ-ブルアンテロープから樹立されたシゾント感染細胞試料からDNAを得て、遺伝子解析を行った。本種は既にrRNA遺伝子塩基配列から固有種と考えられているが,今回の主要ピロプラズマ表面蛋白質(p32相同分子)の遺伝子解析の結果からも、既知の牛由来タイレリア種とは全く独立した位置づけにあることが確認された(角田ら,印刷中)。 猫科動物(ライオン、チ-タ、カラコル[野生猫の一種])の末梢血液の塗抹標本においてタイレリアもしくはバベシアと考えられる原虫を検出した。これらの多くは未記載、未分類の原虫であり、さらにrRNA遺伝子解析を継続して行い、既知の種との遺伝的関係を明らかにする必要がある。 馬科動物においては、シマウマ末梢血液中にバベシア原虫を検出し、5株についてはその試験管内培養に成功した。これらは、形態学的にウマ由来のBabesia equiと同一原虫種と考えられた。南アのウマ由来Babesia equiについては、主要ピロプラズマ表面蛋白質(EMA-1)遺伝子の解析から、少なくとも4つの遺伝型が存在することが今回の調査で明らかになった。(須藤ら、印刷中)。今調査研究内では、馬由来株との遺伝学的な比較をさらに行うには至らなかったが、野生動物が共存する地域でのウマピロプラズマ感染症の疫学を明らかにする上で、EMA-1遺伝子解析をさらに行う必要がある。
|