研究概要 |
チグリス・ユ-フラティス川流域からトルコ東部を経てパレスチナ至る肥沃なな三日月地帯はコムギの起源地かつムギを生産基盤とした西欧文明の発祥地である。さらに,穏やかな地中海の内海水運と周辺の多様な生態学的生産環境に恵まれ,地中海周辺地域でムギ類が多様化した。例えば,オオムギ,ライムギあるいはエンバクは展開してゆくコムギ畑の雑草から起源した。一方,エンバクの野生種はアフリカ大陸北西部にたくさん分布している。また,コムギ近縁植物は野草や随伴雑草として当該調査地域にも分布しているので従来中近東から地中海東部の島々やあるいは東部沿岸地域で採集された植物と比較することによりこれらの植物の種内分化や種の進化のメカニズムを比較生態遺伝学的に検討できる。 平成7年度はモロッコとスペイン,平成8年度は主としてエジプトとチュニジア,本年度は東欧西部と中欧を中心に調査した。 有畜ムギ類農業の全体を観察しつつ,ムギ類とその雑草をつぶさに観察し種子と錯葉を採集した。各地でムギ類を中心としたかなりの系統の種子が収集ができ,膨大な写真や聞き取り調査による記録もできた。予期に反し,フランス東部山岳地帯で一粒系コムギが栽培されていたり東欧を中心に日本型雑草の侵入が観察された。 現在,本研究の近い将来の本格的報告書作成に向け,鋭意増殖と各種の形質についての分析ならびに調査資料整理を日本で進めている。
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