研究課題
伝統的水田農業における主要な有機物と窒素のプールとフロー、および農家の収入・支出の状況を明らかにするために、ジョグジャカルタ近郊の2ヶ所の農村を試験サイトとして研究を実施した。Jatisarono村では半数の農家が伝統的な水田養魚(Mina padi)を行っており、残りは通常の稲作栽培に従事している。他方Menayu村では90%以上の農家が水田養魚を主とする経営を行っており、収入の大半が養魚から得られている。後者の農村は前者に比べて収入も多く、伝統的農業の将来像を示唆するものと判断し、両村の比較を通して伝統的水田管理技術に見られる持続性・合理性の実態を解明することを計画した。昨年度・今年度に実施したアンケート調査、圃場試験から、インドネシアの水田農業においては、有機物・窒素の主要なプールとして、水田圃場に生育する水稲・水田雑草・畦畔雑草に加えて、裏庭(Home Garden)の野菜・果樹、家畜等が挙げられること、稲ワラ・モミ殻、水田・畦畔雑草が毎日の家畜の餌として裏庭に持ち込まれ、他方家畜の糞尿は厩肥として水田圃場に還元されていることが判明した。しかし、水田圃場で飼養された魚の有機物・窒素のプールとしての意義は他の主要なプールに比較して極めて小さく、予想に反して土壌肥沃度維持への寄与は僅かなものと判断された。また、インドネシア農業の特徴として、1)水稲に加えて、乾期畑作物、裏庭の野菜・果樹、家畜が農家収入に寄与するとともに、かなりの部分が自家消費に回されていること2)Menayu村では収入の70%近くを水田養魚から得ており、Jatisarono村に比べ高い収入を得ていること3)Jatisarono村では主たる農業所得を水稲栽培に依存し、水田養魚による所得は全農業所得の10%と少ないこと4)水田養魚を行っている農家の水稲収量はそうでない農家の収量より低いこと、が判明した。