研究課題
本年度は、7月中旬から8月下旬にかけて中国貴州省のほぼ全域において、種々の昆虫群を対象として、系統、行動、生態、遺伝等の調査を行なった。昨年の貴州省は6月に洪水にみまわれ、調査期間中の7月から8月にかけては雨が少なく、昆虫類の調査には良い条件とはいえず、十分な成果をあげるまでには至らなかった。そのような環境下で、チョウ類約130種約1000個体、オドリバエ、アシナガバエ、キノコバエ、タマバエなどのハエ類約5500個体、ハナノミなどの甲虫類約2000個体、ハバチ類80種約250個体および寄生蜂類約300個体、カメムシなどの半翅目類約200個体を採集するとともに、チョウ類4種の幼虫期の生態およびオトシブミ類数種の揺りかご形成習性を初めて明らかにした。ハバチ類では40種について核型を決定した。これらの資料については現在分析を進めており、属レベルでは各昆虫群で日本との高い共通性がみられ、この地域の日華区系要素の強さがうかがわれる一方で、1000m以下の低地では東洋区系要素である熱帯、亜熱帯型の昆虫類も多く、昆虫相は必ずしも単純ではない。種レベルでは、比較的よく調査された昆虫群では、その種多様性は日本に比べてはるかに大きく、日華区系のより中心部に近い地域であることが推察される。また、多数の新種や中国からの未記録種が含まれており、日本との共通種はむしろ稀で、系統の分化とその後の分布拡大の過程で種分化が頻繁に起こった事が示唆される。
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