研究課題
国際学術研究
独立した有爪動物(カギムシ動物)門として分類学上の一群を形成するカギムシは、古くは軟体動物、環形動物などに属するとされた。最近W illiam等(1992年)により節足動物に含まれるべきであるとする説が提唱され、現在分類学上貴重な生きた化石として昆虫の起源に位置する動物とする説が有力であ る。カギムシは日本には生息せず、オーストラレイシアおよび東南アジアの一部のほか、中・南米、南アフリカに生息する。本研究では、これまでに調査のできなかった中・南米地域を重点に調査を実施することとし、調査後、採集個体は分類学上の標本とし、分類学的研究を行うほか、生体を用いて、中枢および末梢神経系およびニューロンの組織学、電気生理学的研究などを行い、節足動物への進化の原始形をもつモデル研究動物として確立することを大きな目標としている。本年度の調査計画は、主にマコ-リ-大学のN.N.テイト博士ならびにロードアイランド大学のR.B.ヒル博士のアドバイスをもとに立てられ、1995年12月にベネズエラおよび西インド諸島を中心に調査すること、1996年2月にはブラジルでの調査を行うこととした。しかしながら、ジャマイカおよびブラジルの当初接触していた研究者が途中で協力的でなくなったため、再び情報を収集するうちに、西インド諸島のジャマイカなどより中米ベリ-ズのほうがより採集しやすいこと、ブラジルよりはその周辺部の島のほうが採集地点の特定をしやすいこと、また文献調査によりブラジルに近いところとしてトリニダッド・トバゴが採集の頻度が高いことがわかり、それぞれ効率を考えて、ベリ-ズならびにトリニダッド・トバゴを調査することに変更した。第1回の調査は、アメリカ合衆国プエルトリコならびにベリ-ズで行った。調査隊には山崎、桑沢、小林、矢沢、田中の5人が参加し、1995年12月8日までの11日間、両国を密に調査した。コスタリカおよびメキシコ南部でもカギムシは採集されているが、文献的にはベルリ-ズから分布記録がない。しかし、土地の人たちはたしかに見たことがあるといって、見た場所まで案内してくれるので、分布の可能性が高いのだが、季節が悪いのか、残念ながら採集できなかった。ただ、おそらくジャガ-の保護地域がもっともカギムシの生息の可能性が高いことが推測された。一方、プエルトリコではテイト博士のアドバイスもあって、徹底的に森林地の調査を行い、プエルトリコ産の1種を得た。プエルトリコではカギムシを見たという人はまったくおらず、現実にきわめて数少ないものと考えられたが、ともかく生息していることを確かめられたのは収穫であった。第2回の調査は、アメリカ合衆国プエルトリコ、南米ベネズエラ、西インド諸島トリニダッド・トバゴの国々で行った。参加者は山崎および桑沢の二人で、期間は1996年3月1日から3月13日までの13日間である。それぞれの国の研究者と密に連絡をとって行われた。プエルトリコでは、12月に調査できなかった西部の森林地帯で調査を行ったが、乾燥がより強くなったためか、環境条件はよくなく、採集できなかった。ベネズエラは、この時期もっとも個体数が多く採集されるということだったが、環境の改変が進んでいて、生息地らしきものを探すのさえ、大変な苦労であった。昔は街路樹からも採集されたというが、今ではとてもそれは望まれない状態になっていて、残念ながらカラスカギムシといわれるものは見ることができなかった。一方、ブラジル側からも提案があったトリニダッド・トバゴでは、環境汚染のされていない二次林からなる、よい森林地帯を発見し、ここで現地に滞在している米英の研究者の協力を得つつ、マクロペリパツスという種を採集することができた。現在、第1回ならびに第2回の調査で採集された個体を飼育し、飼育データを取っているところである。また行動学的な観察を行い、胎生種であることを期待して、次世代の出現を待っている。次世代が出現次第、神経生理学的研究に入ることが可能となろう。
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