研究概要 |
平成7年度より,「カンボジアにおけるHIV/AIDS流行に関する実態調査および疫学的研究」が開始されている。第1次調査団が平成7年12月6日より13日の間,カンボジアを訪問した。首都プノンペンにおいて,保健省エイズ対策部,衛生疫学センター,国立シアヌ-ク病院,国立カルメット病院,警察病院,陸軍病院,STDセンター,国立母子センター,国立輸血センター,プノンペンパスツール研究所を訪問し,HIV/AIDS流行状況,サーベイランス体制,研究・検査状況,医療,予防対策等に関する実状を調査し,情報資料を収集した。また,日本の現地NGOであるAMDAからもその活動と情報を入手した。これらの調査により,多くのことが明らかになっている。特に売春婦(CSW)ではHIV感染率は43〜14%,平均30%程度である。妊婦群では4.4〜1.5%で,主に夫からの感染であることも明らかになった。輸血用血液の抗体陽性率はプノンペン市で4.3%であり増加傾向が見られ,また,他のSTDの検査に関しては梅毒3〜4%,HBs抗原9〜11%であるという情報が得られた。 平成8年度は,前年に引き続き,首都プノンペン地域の他,南部の主要港都シアヌ-クビル(コンポソム)およびタイ,ベトナムと交流の多い地域においても調査を実施するとともに,性風俗産業従事者(CSWs)に対して性行動調査を行っている。日本からは研究者のべ9名(うち研究協力者のべ4名)が6月,11月および平成9年3月の3回にわたりカンボジアを訪問している。 平成8年6月11日より6月15日までの間,カンボジア保健省エイズ対策担当者とリスク集団である性風俗産業従事者(CSWs)の性行動調査に関する調整・打ち合わせのため,森尾以下2名がプノンペンを訪れた。質問調査票(アンケート用紙)の検討・作成および調査対象地域の視察を行っている。視察はプノンペン市内およびその郊外にある売春宿,ダンスホール等,数ヶ所について行った。 平成8年11月18日より22日までの間,CSWsの性行動調査の具体的実施方法についての打ち合わせのため,田島以下1名がカンボジアを訪れた。カンボジア保健省エイズ対策担当者と相談のうえ,性行動調査の対象地域5ヶ所と対象者600人の最終決定を行った。また,カンボジアにおける血清疫学調査の計画についての打ち合わせも同時に行われ,次年度以降の調査の具体的な方向性が話し合われた。田島らは,視察・調査のためシアヌ-クビル(コンポソム市)を訪れ,市の衛生部長Kiv Bun Sany氏と接見し,同市の地域特性,気候,風土,性産業などに関する情報を得た。なお1996年8月にオーストラリアとUSAの赤十字センターにより同市で行われた調査ではCSWsの51.5%(対象数99名)がHIV抗体陽性であり,また,妊婦の5.9%(対象数201名),警察官の13.7%(対象数51名),兵士の17.7%(対象数52名)がHIV抗体陽性であった。田島らは同市内にあるSTD診療所も訪れ,同市におけるSTD診療の実際を視察している。また彼らは,このカンボジア渡航の際にマレーシアを経由し,マレーシアのHIV流行状況の資料をマレーシア保健省より入手している。 平成8年12月から翌1月にかけてカンボジアにおける質問調査票による性行動調査が実施された。調査はプノンペン市内およびその近郊の5ヶ所(Cham Karmorn 地区,Toul Kork 地区,7 January 地区,Daun Penh 地区,Dong Kor 地区)で行われ,Direct Commercial Sex Workers(Direct CSWs,brothel based sex workers),Indirect Commercial Sex Workers(Indirect CSWs),およびその顧客の3者を対象として,それぞれ200名ずつ計600名に対して行われた。 平成9年3月26日より30日の間,曽田以下3名がカンボジアに訪問し,前年12月から本年1月にかけて実施した調査結果の確認が行われた。また,この訪問中に次年度以降の調査の打ち合わせ,及び次年度から追加されるSTD血清抗体調査の具体的施行方法についての話し合いがなされた。本年度の性行動調査によって得られた調査結果を基本資料に,次年度以降は,行動疫学調査と血清疫学の組み合わせ研究が行われることになる。
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