南米・カリブ海諸国でのHTLV-I/II感染の民族背景と疾患感受性に関する研究

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07042007
• 研究機関: 鹿児島大学
• 研究代表者: 園田 俊郎 鹿児島大学, 医学部, 教授 (40036463)
• 研究分担者: LUIS Hurtado ボリビア医学会, 名誉教授 ; BYRNES John マイアミ大学, 医学部, 教授 ; HANCHARD Bar ウエストインディー大学, 医学部, 教授 ; 屋敷 伸治 鹿児島大学, 医学部, 助手 (40182315) ; 藤吉 利信 鹿児島大学, 医学部, 助教授 (50173480) ; 嶽崎 俊郎 愛知県がんセンター研究所, 主任研究員 (50227013) ; 速水 正憲 京都大学, ウイルス研究所, 教授 (40072946)
• キーワード: HTLV-I / HLA / 南米アンデス先住民 / イ-スター島住民 / HAM / TSP / ATL / 疾患感受性 / 民族疫学

研究概要

(研究の目的)南米・カリブ海諸国なかでモンゴロイド系HTLV-Iのフォーカスはコロンビアからチリまで広がっている。平成8年度調査では、ボリビア・アンデス高地住民とチリ・イ-スター島住民を対象にHTLV-IキャリアとATL、HAM/TSP患者の検索をおこない、モンゴロイドとポリネシア系HTLV-Iの新しい感染フォーカスと患者の発掘ならびにそれぞれの民族背景を明らかにすることを目的とした。
(研究の方法、対象)ボリビアの先住部族(アイマラ族、ケチュア族、チパヤ族)が居住するエスカラ、ワチャカジャ、チパヤ、アマステ、チェラサニの村落をDr.Hurtadoの案内でたずね、住民の同意をえて血液検体を採取した。現地では血清を一部分離しPA法によるHTLV-I抗体検査をおこなった。残余の血液検体はボリビア国立衛生研究所(ラパス市)にもちかえり、リンパ球を分離凍結して日本にもちかえり、HTLV-IDNAとHLA分析に供した。ワチャカジャではspastic paraparesisの患者一名をふくめ血液検体を採取した。チリ・イ-スター島の先住部族(パパヌイ)の血液検体は田島博士の協力で入手し日本へもちかえり検査した。
(研究の結果)ボリビアでは54名中2例(3.7%)にHTLV-I陽性者が発見されいづれもアイマラ族出身者であった。そのうち1名はHAM/TSP様の患者であった。チパヤとケチュア族にはHTLV-I陽性者は皆無であった。イ-スター島では140名中1例のHTLV-I陽性者が発見された。HTLV-I陽性者3名のHLAハプロタイプを推定した結果、ボリビア・アイマラ族のHAM/TSP様患者とキャリアは南九州日本人のATLやキャリアのHLAハプロタイプと近縁のものであった。一方、イ-スター島・パパヌイ族のキャリアはニュージーランド・マオリ族と南米インディオ由来のHLAハプロタイプと近縁のものを保有していた。
(研究結果の考察)ボリビア・アイマラのHTLV-Iキャリアと患者は日本人と同じアジア系モンゴロイドの一系統である可能性が示唆された。イ-スター島・パパヌイ族のHTLV-Iキャリアはニュージーランド・マオリ族と南米インディオとの混血とおもわれ、メラネシアと南米先住モンゴロイドのいづれかに由来するHTLV-Iが持ち込まれた可能性が考えられた。
(今後の展望)南米・カリブ海諸国にはHTLV-Iの自然感染によるキャリアがおり、ATLとHAM/TSPを発症させている。ボリビア・アンデスの先住部族のなかではアイマラ族のみがHTLV-I感受性をもつ可能性が示唆された。そこで、この民族特性をHLA遺伝学で明らかにすればHTLV-I関連疾患の発症要因を究明できると思われる。

研究成果

• [文献書誌] L. La Granade. S. Sonoda. W. Miller, E. Pete, P. Rodgers-Johnson, B. Hanchard, B. Cranston, T. Fujiyosji. S. Yashiki, M. Blank, C. J. Gibbs and A. Manns.: "HLA DRB1*DQB1*haplotype in HTLV-I-asssociated familial infective dermatitis may predict development of HAM/TSP." Amer. J. Med. Genet.61. 37-41 (1996)
• [文献書誌] B. Kitze, K. Usuku, S. Izumo, M. Nakamura, H. Shiraki, N. Ijichi, S. Yashiki, T. Fujiyoshi, S. Sonoda and M. Osame.: "Diversity of the intrathecal antibody synthesis against HTLV-I and its relation to disease." J. Neurol.243. 393-400 (1996)
• [文献書誌] B. Kitze, K. Usuku, S. Yashiki, S. Ijichi, T. Fujiyoshi, M. Nakamura, S. Izumo, M. Osame, and S. sonoda.: "Intrathecal humoral immune response in HAM/TSP in relation to HLA haplotype analysis." Act. Neurol. Scand. 94. 287-293 (1996)
• [文献書誌] M. Nagai, S. Yashiki, T. Fujiyoshi, C. Fujiyama, B. Kitze, S. Izumo, M. Osame and S. Sonoda.: "Characterization of a unique T-cell clone established from a patient with HAM/TSP which recognized HTLV-I-infected T-cell antigens as well as spinal cord tissue antigens." J. Neuroimmunol.65. 97-106 (1996)
• [文献書誌] S. Sonoda, T. Fujiyoshi and S. Yashiki.: "Immunogenetics of HTLV-I/II and associated diseases." J. Acq. Immun. Defic. Synd. Hum. R.13 (suppl 1). S119-S123 (1996)
• [文献書誌] S. Sonoda and T. Fujiyoshi: "HTLV-I infection and HLA." Gann Monograph on Cancer Research Ethnoepidemiology of Cancer (eds. K. Tajima and S. Sonoda) .44. 81-93 (1996)
• [文献書誌] K. Tajima and S. Sonoda.: "Ethnoepidemiology, a new paradigm, for studying cancer risk factors and prevention strategy." Gann Monograph on Cancer Research Ethnoepidemiology of Cancer (eds. K. Tajima and S. Sonoda) .44. 3-12 (1996)
• [文献書誌] Y. Yamano, B. Kitze, S. Yashiki, K. Usuku, T. Fujiyoshi, T. Kaminagayoshi, K. Unoki, S. Izumo, M. Osame and S. Sonoda.: "Preferential recognition of synthetic peptides from HTLV-I gp21 envelope protein by HLA-DRB1 alleles associated with HAM/TSP." J. Neuroimmunol.(in press).
• [文献書誌] K. Kubo. T. Fujiyoshi, M. M. Yokoyama, K. Kamei, J. A. Richt, B. Kitze, S. Herzog, M. Takigawa and S. Sonoda.: "Lack of association of Borna Disease Virus and human T-cell leukemia virus type I infections with psychiatric disorders among Japanese patients." Glin. Diag. Lab. Immunol.(in press).
• [文献書誌] K. Tajima and S. Sonoda (des) .: "Ethnoepidemiology of Cancer, Gann Monograph on Cancer Research No. 44" 日本学会出版センター, 1-223 (1996)
• [文献書誌] 園田俊郎、田島和雄: "HTLV-I、II民族疫学、Molecular Medicine(特集ヒトがんウイルス)33巻" 中山書店, 334-341 (1996)
• [文献書誌] 園田俊郎: "HTLV-I、IIの感染の疫学、免疫応答と発癌の宿主要因(特集 ヒト癌ウイルスによる発癌機構)血液腫瘍科 33巻" 科学評論社, 123-132 (1996)
• [文献書誌] 園田俊郎: "ウイルス感染症 標準微生物学第6版(平松、山西編)" 医学書院, 376-384 (1996)
• [文献書誌] 園田俊郎: "臨床検査 ウイルス 微生物学(竹田、上田、浜田、垣内編)" 医歯薬出版, 682-692 (1996)
• [文献書誌] 園田俊郎: "ウイルス感染症の疫学 微生物学(竹田、上田、浜田、垣内編)" 医歯薬出版, 644-652 (1996)
• [文献書誌] 屋敷伸治、園田俊郎: "レトロウイルス、遅発性ウイルス感染症とその類似疾患(脳と神経科学シリーズ3" メデイカルレビュー社, 12-21 (1996)