研究課題
1.本年度は昨年度に引き続き、高頻度にHTLV-Iの感染が見られる日本とアフリカを結ぶ空白地帯の調査を行った。同時にヒト・サル間での種間感染の可能性を検討するためにオランウータンにおけるSTLV-Iを解析した。2.疫学調査:中国において湖南省の少数民族の採血を行い、1500人の血清を得た。この内の750検体は全てHTLV-I陰性であった。インドのケララ地方では供血者500人の抗体スクリーニングを終えたが現在まで陽性者は見い出されていない。マレーシアではセマン系の先住民族の血液試料の収集が開始された。タイにおける調査では、北部の少数民族5族400人で抗体陰性の結果が見られ、南部でWB陽性を示したリンパ腫患者の近縁者のDNAでPCRによる増幅を見た。インドネシアのスラウェシ島住民230人を検索したが全て陰性であった。遺伝子解析:インド南部で発見したHTLV-I分離株は現在までに解析した株と共にTranscontinentalサブグループに属した。同サブグループの中でもインドからのHTLV-Iは多様性を示す事から、このサブグループが過去に世界中に伝播していく過程でインドが中心地的な役割を担ってきたと思われる。サハリンの少数民族の4検体は全てTranscontinentalサブグループに属した。この結果は日本の両端(北海道や沖縄)に同サブグループが多いという事実と一致し、この少数民族のウイルスは日本のHTLV-Iの起源に深く関与していると考えられる。インドネシア産のオランウータンから分離した2つの分離株はアジア産マカクのSTLV-IやHTLV-Iのメラネシア・グループに類似性を示すが、系統樹ではそれらと有意にクラスターを作らなかった。この事からメラネシア周辺に存在するHTLV-I変異株の起源がオランウータンであるという可能性は少ないことが示唆される。
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