研究課題
本研究班では、多発する肺癌の原因を、疫学、病理学、分子生物学、栄養学、生化学の様々な角度から究明するため、以下の三つのアプローチに基づいて研究を進めている。第一のアプローチは、チェンマイ大学医学部病院における手術及び生検材料を用いた病理学的検討と肺組織から抽出したDNAによる分子生物学的検討である。本年度は、病理学的検討のため2回の派遣を行い、タイ北部肺癌の特徴の把握に努めている。また、平成8年11月までに男女計31検体のDNAを抽出し、現在継続中である。二番目のアプローチは、チェンマイ大学病院における患者対照研究である。平成8年11月までに、肺癌患者50名(男31、女19)および対照患者33名(男9、女24)の生活習慣・生活環境に関する調査を行った。面接体制も確立し、今後さらに調査が進むものと考えられる。三番目のアプローチは女性肺癌の高率及び低率地域における女性一般住民調査の調査である。この調査は患者対照研究では導入できない生体マーカー、居住環境の直接調査、食餌の分析を目的としたものである。調査内容は、(1)患者対照研究の質問票による面接調査、(2)末梢血の血清学的検討、(3)尿中変異原物質の抽出、(4)食餌サンプルの収集と分析、(5)居住家屋内の浮遊細菌の解析、(6)喀痰中の細菌の解析、である。女性肺癌が最も高率なサラピー地区(年齢訂正罹患率:35)での平成7年度の調査(調査対象57名)に引き続き、平成8年度は、前年度と同じ調査時期を選んで、サラピー地区と気候風土・人口規模が類似し、かつ女性肺癌が低率なチョントン地区(年齢訂正罹患率:8)の女性住民59名について、同じ調査を行った。採取した各種サンプルは、現在解析中あるいはサラピー地区のサンプルと合わせての解析を準備中である。予備的解析の結果によると、肺癌の高率なサラピー地区は低率なチョントン地区と比べ、血清中の過酸化脂質のレベルが高く、アルブミンやビタミンB_2が低い、また大気中の浮遊細菌・菌類の種類・量ともに多く、肺の良性疾患の既往を持つ者が多い、喫煙歴のある者の割合はむしろサラピー地区の方が低い、という特徴が見いだされた。
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