研究課題
タイ国北部チェンマイ州の肺癌罹患率は男女とも高く、特に女性肺癌の増加は著しい。われわれは、チェンマイ大学医学部と共同で、女性肺癌多発の原因を究明し、その成果をもとに予防方策を見出すことを目的として、疫学・栄養学・病理学・分子生物学・生化学等の多様な角度から研究を行ってきた。平成7・8年度は、女性肺癌の高率(サラピー地区)および低率(チョントン地区)地域において、50〜74才の一般女性住民を対象に、(1)生活習慣調査、(2)末梢血サンプルの血清学的検討および尿中変異原物質の抽出、(3)食餌サンプルの分析、(4)居住家屋内の浮遊細菌、喀痰中の細菌の分析等の調査を実施した。その結果、女性の喫煙率はサラピー地区28.1%、チョントン地区61.0%と両地区とも非常に高いが、喫煙者の割合はむしろ低率地区で高かった。これは、喫煙だけでは肺癌多発の原因を説明できず、何らかの促進因子が存在することを示唆している。チョントン地区に比べ、サラピー地区では果物・緑黄色野菜の摂取が少ないほか、良性肺疾患の既往者の割合が3倍以上高いこと(49.3%)が見出された。さらに、サラピー地区で肺疾患の既往を持つ喫煙者は、イムノグロブリンEが1000U/ml以上と異常高値を示し、肺組織が喫煙以外の環境物資に暴露されていることが示唆された。浮遊細菌の分析では両地区とも多様な菌相が見られたが、特にサラピー地区の菌量は多く、Mカニス菌が特徴的に見出された。今後、平成9年に収集した良性肺疾患患者の血清についてもサイトカインなどの測定を行うとともに、動物実験により培養した浮遊細菌の発がんプロモーター活性を検討する予定である。さらに、同時に進めている患者対照研究、病理学的検討、分子生物学的検討の結果とあわせて、タイ国北部の女性肺癌多発の原因を究明したい。
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