研究課題
中国甘粛省の敦煌莫高窟をフイールドとして、岩体、壁面の保存対策についての共同研究を、敦煌研究院と共同で行っている。実験窟として、第53窟、第194窟、第258窟を選定し、詳細な調査を行い、劣化部位、形態、原因を解析し、保存対策について考察した。本年度の調査、研究により得られた知見は下記の通りである。・第53窟における壁画の剥落は、莫高窟の前を流れる大泉河が大雨により増水し、洪水を起こして、その水が洞窟内に流れ込んだことによると考えられる。このことは、壁画面に折出している塩が石膏(CaSO_4)であり、これは、大泉河の水に大量に含まれる硫酸イオンが壁面下地泥のカルシウム分と反応して生成されたとする研究結果から、考察される。従って、保存対策としては、たとえ洪水が起きた場合でも、水が洞窟内に流れ込まないようにすることが基本となる。・第194窟は、最上層にあり、雨水が直接上部から浸透する状況にある。この洞窟の壁画の剥落は、過去に起こった大雨により上部から大量に水が浸透し、著しい量の岩塩(NaCl)の結晶が折出したためと考察された。従って、保存対策としては、雨水が浸透しないように、水の逃げ道をつくるなどの方策が必要と考えられる。・第258窟の壁画は、昔人が住みつき火を使ったことにより、黒く煙燻されている。この壁画のクリーニング方法について、いくつかの実験を行い、レーザーガンによる方法が効果的ではないかと考察された。今後、現場実験を行う予定である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (1件)