研究課題
計画の最終年度にあたる本年度は、まず、大英博物館において、同館所蔵の民族誌写真のうち、アジア関係資料など、これまで未調査の写真資料についての調査を進める一方、それと関連するローマの国立民族学博物館所蔵の写真資料との比較調査を実施した。また、この作業と平行して、写真画像および付帯情報のデータベース化を進め、日英で互換可能な情報処理システムを構築した。さらに、大英博物館より研究分担者1名を招き、大英博物館側の費用で来日した他の2名の研究分担者も加えて研究集会を催した。この集会では、上記情報処理システムを活用しつつ、これまでに蓄積された研究情報の地域や時代を越えた横断的解析を実施した。これら一連の作業により、以下のような成果がえられた。もっとも大きな成果は、19世紀末から20世紀にかけて、地球規模で展開していったモダニズムの様相を具体的にあとづけることが可能になったことである。そのなかから、近代においていくつかの文化要素が世界各地で同時並行的に受容されていったことが明らかになった。この知見は、西洋と非西洋、中心と周縁、文明と未開を峻別し、前者を変化の主体ととらえる一方、後者を変化に乏しい伝統的な世界とみる旧来の世界認識に根本的な改変を迫るものといわなければならない。民族誌写真の通時的変遷の分析からは、民族学・人類学の「異文化」に対する認識の変化もまた浮かび上がってきた。また、アフリカやオセアニア、アジアのいくつかの地域については、19世紀なかごろから現在にいたるまでの民族文化の歴史的変遷をかなり詳細に再構成することもできた。民族学・人類学を「歴史化」するという、本計画の所期の目的は十全に達成できたと考えている。なお、これら一連の研究成果は、国立民族学博物館20周年記念特別展「異文化へのまなざし-大英博物館コレクションにさぐる」および同名の展示解説書において、すでに一部公開されている。
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