研究課題
国際学術研究
本研究の最大の成果は、個人のマイクロ・レベルでの信頼行動や信頼性判断と、よりマクロ・レベルで信頼が果たしている役割を総合的に理解するための有用な理論枠組みを構築した点にある。具体的には、まず、一連の実験研究の結果、他者一般を信頼せず「人を見れば泥棒と思え」と決めつける傾向にある低信頼者よりも、他者一般の信頼性についてのデフォルト期待値を高めに保っている高信頼者の方が、他者の信頼性の欠如を示唆する情報に対してより敏感であり、また他者の人格特性としての信頼性をより正確に見極めることができることが示された。また、日米比較実験を含めた別系列の一連の実験により、機会費用の小さな社会環境のもとでは関係の固定化が生まれ、人間関係の性質を正確に認知する必要性が大きいが、人間性を正確に認知する必要性が小さくなることが示唆されている。これらの結果は、人間関係の性質を認知するための社会的知性と、他者の人間性を認知するための社会的知性が独立に存在しており、社会全般におけるコミットメント関係の維持に要する機会費用の大きさに応じて、いずれの種類の社会的知性が発達しやすいかが異なってくる可能性を示している。機会費用の大きな社会環境のもとでは、人間性認知用の社会的知性の形成に対する認知資源の投資が起こり、その結果他者一般の信頼性のデフォルト期待値を高く保つことが可能となるため、一般的信頼のレベルが高くなるものと考えられる。これらの研究結果はこれまで10を越える国際会議で発表されており、その結果、現在、アメリカとヨーロッパのみではなく、アジア各国においても追試実験が計画されるようになった。今後は、これら各国の研究者による追試実験の成果を取り入れ、より広い文脈で社会的知性と信頼との関係を明らかにすることが可能となるであろう。
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