研究分担者 |
BRAUNSTEIN P ルイ, パスツール大学・化学教室, 教授
SAUVAGE J.ーP ルイ, パスツール大学・化学教室, 教授
猪俣 慎二 東北大学, 大学院・理学研究科, 助手 (50241518)
上野 圭司 東北大学, 大学院・理学研究科, 助手 (20203458)
飛田 博実 東北大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (30180160)
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研究概要 |
今年度は,第3周期以降の典型元素フラグメントと遷移金属フラグメントとをつないで遷移金属クラスターおよびさらに大きな遷移金属超分子を合成する際に基本となる,金属-典型元素-金属ユニットおよびその逆の典型元素-金属-典型元素ユニットの構築法の開発およびその性質に重点を置いて研究を行い,次の成果を得た。 1.金属-典型元素-金属ユニットを持つ系 (1)二つの配位環境の異なる金属ユニットがホスフィド配位子によって架橋された幾つかの新しい鉄二核錯体および鉄-ルテニウム二核錯体を合成した。これらの錯体は,各種アルキンおよびジヒドロシラン,ヒドロジシランと温和な条件で反応し,それぞれアルキン1分子または2分子を配位子の一部として取り込んだ錯体およびケイ素上の置換基の再分配を伴ったシリレン架橋錯体を与えることを見出した。 (2)第1級または第2級ゲルマンはCp'Fe(CO)_2SiMe_3(Cp'=η^5-C_5H_5,η^5-C_5Me_5)と光照射条件下で反応し,モノ(ゲルミレン)架橋二核錯体と伴にビス(ゲルミレン)架橋二核錯体を生じること,および第1ゲルマンとη^5-C_5Me_5錯体との反応では前例のないGe-H-Fe3中心2電子結合を2つ持つ二核錯体も生成することを見出した。同様にして,Sn-H-Fe3中心2電子結合を2つ持つ二核錯体の合成にも成功した。 (3)スルフィドまたはジスルフィド配位子によって架橋された鉄二核錯体を出発物質とする,混合配位子および混合金属型遷移金属-硫黄三核および四核クラスターの新しい系統的な合成法を見出した。 2.典型元素-金属-典型元素ユニットを持つ系 (1)シリレン-遷移金属-シリル(Si=M-Si)という骨格上で,シリル基上の置換基が極めて温和な条件で1,3-転位を起こすことを,塩基の配位によって安定化されたシリル(シリレン)錯体を単離し,加熱によって可逆的に塩基を解離させるという方法で初めて確認した。具体的には,(i)分子内塩基で安定化されたジシラニル(シリレン)鉄錯体を加熱すると,ケイ素上の置換基の分子内再分配を伴ってシリル置換ビス(シリレン)錯体に変換されること,および(ii)HMPAなどの塩基で安定化されたシリル(シリレン)鉄錯体のシリル基とシリレン配位子のNMRシグナルが,高温では1本に融合することを見出した。 (2)室温で容易にホスフィンを解離して16電子のイリジウム(I)化学種を発生する錯体の合成に成功し,この錯体にヒドロジシランを作用させると,ヒドロジシラン上の置換基の分子内転位により異性化が起こることを見出した。さらに,上記錯体を原料として,9族金属では初めてのシリル(シリレン)錯体の合成単離に成功した。 (3)塩基で安定化されたビス(シリレン)ルテニウム錯体の反応性について詳細に検討し,この錯体はメタノール,水等の求核剤と激しく反応し,それらがO-H結合の開裂を伴ってRu=Si二重結合に付加した生成物を与えることを明らかにした。また,トリフェニルホスフィンを配位子として持つビス(シリレン)ルテニウム錯体では,加熱によりホスフィン上のフェニル基のオルト位のC-H結合がRu-Si二重結合に付加することを見出した。これは金属-ケイ素不飽和結合によるC-H結合活性化の初めての例である。 今後,これらの成果を基礎として,より大きな分子サイズを持つ遷移金属クラスターならびに超分子の合成を目指すと共に,得られた化合物を用いて,超分子に特有の多中心での協同的活性化および分子認識を利用した物質・エネルギー変換系の実現を目指して,研究を展開していきたい。
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