研究課題
星形成過程に関する研究は、世界的には、個々の星形成領域の詳細な観測に重点をおいてすすめられている。これらの研究は、ともすれば、放射強度の高い「目立った」天体に集中して行なわれる場合が多いのは、無理もない趨勢である。しかし、そうして得られる知見については、どの程度普遍的に宇宙全体についてあてはまるか、という吟味が欠かせない。今、必要とされるのは、むしろできるかぎり多数の星形成領域のサンプルを偏りなく集め、それらについて均質な観測データを得ることによって十分高い普遍性を持つ傾向、あるいは規則性を見い出す努力であろう。本研究は、このような問題意識に立ち、ミリメートル波の星間分子スペクトルによる広域掃天観測を遂行し、多数の星形成領域をもれなく検出し、星形成の統計的研究を行なったものである。検出された分子雲について解析し、以下の知見がえられた。(1)分子雲の質量スペクトル(dn/dm)とは、mについて平均して-1.7乗のべき関数でよく表わされる。(2)分子雲の質量と分子スペクトルの線幅との間に有意な相関は見られない。(3)各分子雲に付随する原始星について、光度分布関数(dn/dL)を求めると、光度Lについて-1.3乗のべき関数でよく表わされる。(4)各分子雲において形成される星の最大光度が分子雲の質量の1.4乗に比例して増加することを見い出した。(5)分子雲のビリアル質量(線幅から力学的平衡を仮定して求めたもの)と、LTE質量(分子スペクトル強度から熱平衡を仮定して求めたもの)との間によい相関があり、M_<VIR>∝M_<VIR>^<0.6>と表現できる。(6)星形成活動は、ビリアル質量とLTE質量の比と相関がある。すなわち、M_<VIR>/M_<LTE>大の雲では、ほとんど星形成はおきていないのに対して、M_<VIR>/M_<LTE>小の雲では活発な星形成が見られる。以上の結論は、これまでの研究では取り扱われていない領域に初めてふみこんだものであり、分子雲における星形成活動に対する大局的な理解を与えるものである。これまでの個々の領域の研究では見当のつかなかった分子雲の星形成における特性を明らかにできたものと考える。
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