赤外線分光観測による初期宇宙における銀河形成過程の研究

1996 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 07044080
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 舞原 俊憲 京都大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (90025445)
• 研究分担者: 高遠 徳尚 国立天文台, 光赤外系, 助手 (50261152) ; 家 正則 国立天文台, 光赤外系, 教授 (30111446) ; CHAMBERS Ken ハワイ大学, 天文学研究所, 研究員 ; HODAPP Klaus ハワイ大学, 天文学研究所, 研究員 ; COWIE Lennox ハワイ大学, 天文学研究所, 研究員 ; HALL Donald ハワイ大学, 天文学研究所, 所長 ; 片坐 宏一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (70242097) ; 西村 徹郎 国立天文台, 光赤外系, 助教授 (90260017) ; 大谷 浩 京都大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (80000850) ; 岩室 史英 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (80281088)
• 研究期間 (年度): 1995 – 1996
• キーワード: 銀河 / 銀河形成 / 銀河核 / 宇宙 / 宇宙初期 / 高赤方偏移 / 銀河進化 / 赤外線スペクトル

研究概要

本研究の第1義的な目的は、宇宙の比較的初期に形成された銀河系の初期進化過程を観測的に明らかにすることである。宇宙の初期の天体は、大きな赤方偏移を受けて、紫外から可視域の大部分の放射が近赤外線波長域に移ってくるので、赤外線観測がとりわけ重要になる。我々の観測の方法では、高層大気のOH夜光の輝線スペクトルに起因する強いバックグランド放射を除去することのできる特殊な分光観測装置をもちいて、通常の観測の方法では達成できないような微弱天体の赤外線観測を実施することにより、形成期を経て初期の進化過程を明らかにしたいという動機にもとづいて観測計画を進めてきた。
まず、研究の目的である銀河の形成と初期の進化過程の赤外線分光観測の方法による観測的研究を、非常に優れた観測条件を有するアメリカ合衆国ハワイおよびアリゾナに置かれた望遠鏡を用いて行なった。我々が独自に開発を進めて製作した特徴ある幾つかの赤外線分光・撮像機能をもつ観測装置を持ち込んで、相手側機関の関連研究者の協力のもとでそれらの望遠鏡の取り付ることにより、以下のような研究実績を得ることができた。
まず、京都大学で開発をしてきたOH夜光除去タイプの赤外線分光器による宇宙初期天体の赤外線分光観測を、ハワイ大学のマウナケア観測所の望遠鏡に付けた観測では、高赤方偏移をもつ遠方の銀河やクェーサーにおける非常に強い重元素の電離状態からの輝線を観測することに成功し、それらの天体の特異な物理状態を明らかにするという成果が得られた。特に、形成期を経つつあると被われる赤方偏移の値が2乃至3以上の若い銀河や若いクェーサーなど合計3つの天体について、OH夜光除去分光器による観測が行なわれ、特徴的な輝線の強度やその強度比を得たことで、研究の目的に直結する成果を得ている。同じく京都大学で開発した3ミクロン域の高分解・高波長帯域性能を有する分光器システムをアリゾナのマウントレモン観測所の望遠鏡に取り付けた観測では、比較的近傍の活動銀河核の周りの物質の組成と分布構造を明らかにした。その結果、銀河核近傍に存在する分子雲の中にも、銀河の進化のステージを示す炭素質個体微粒子生成がかなり進んでいることを示した点で新しい成果を得たと言える。
一方国立天文台のグループは、新たに開発した中間赤外線分光・撮像器システムをアリゾナのマウントレモン観測所の望遠鏡につけて、銀河の中心部における星の生成活動を定量的に評価することを目的とした観測を実施し、興味深い結果を得た。この観測の成果は、比較的最近に至るまでの銀河進化の経過をトレースする新しい方法として、中間赤外線の観測が有用であることを示したことで、今後大口径の望遠鏡による本格的な観測装置の開発的研究を進める上でも今回の観測結果は重要な役割を果たしたと言える。
また光学分光観測装置を使った銀河核の活動性の起源を調べる観測的研究を、ハワイのマウナケア観測所のCFH望遠鏡を使って行なった。その結果、典型的なセイファート型銀河のひとつにおいて、中心核を取り囲む領域の詳細な速度構造を示すスペクトルの2次元的な分布の情報を得ることができた。その解析の結果、これまで詳しくわかっていなかった中心に向かって落ち込んでいくガス速度成分を示す特異的運動形態が明らかになってきた。このようなある程度広い領域の高い分解能のスペクトルを同時に観測できるマイクロレンズ方式の特殊な観測装置は、京都大学でも開発を進めてきたので、今回の観測結果に基づいて、より系統的な観測的研究の方向性が得られたことは大きな成果であった。

研究成果

• [文献書誌] F.Iwamuro: "Near Infrared Spectrophotometry of IRAS FSC 10214+4724" Publ.Astron.Soc.Japan. 47. 265-270 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Nishimura: "Mid-Infrared Test.Observation System for Subaru" Sci.and Engineer.Frontiers for 8-10m Tels. 155-160 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Nakagawa: "Deficit of Far-Intrared〔C II〕Line Emission toward Galoctic Center" Astrophys.J.Letters. 455. L35-L38 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] G.Kosugi: "Spectro-Nebula-Graph:a tridimensional-spectroscopic system based on a local area network of personal computers" Publication of Astronomical Society of Pacific. 107. 475-482 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] G.Kosugi: "Tridimensiona spectroscopy of the Seyfert galaxy 3C120" Method of Tridimensional Optical Spectroscopy in Astronomy,(Proc of IAU Colloquim No.149)(Astronomical Society of Pacific). 205-206 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] M.Yoshida: "Tridimensional observations of nearby active galaxies using OAO Spectronebulgraph" Method of Tridimensional Optical Spectroscopy in Astronomy,(Proc.of IAU Colloquim No.149)(Astronomical Society of Pacific). 207-208 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Mochizuki: "A Survey of the Large Magellanic Cloud in the 〔C II〕158 Micron Line" The Physics and Chemistry of Interesteller Molecular Clouds:Proc.of Second Cologne-Zermatt Symposium. 22- (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] E.Egami: "Hawaii 167 and Q0059-2735 Heavily Dust Enshrouded Young QSOs" Astron.J. 112. 73-80 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] F.Iwamuro: "Near-Infrared Spectrophotometry of 4C40・36" Astrophys.J.Lett. 466. L67-L70 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] M.Imanishi: "Spectroscopic Study of NGC1068 in the 3um Band" Publ.Astron.Soc.Japan. 49. 69-73 (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.Aoki: "High Velocity Outflow in the Extended Emission-Line Region" Astron.J. 111. 140-151 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] D.Tomono: "Near-Infrared Two-Wavelength Shift-and-Add(印刷中)" Solid State Seusor Arrays:Development and Applications. Proc. (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Nishimura: "Mid-Infrared Test Observation System(MIRTOS)" SUBARU Newsletter. 1・3. 10-11 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] H.Ohtani: "The Kyoto 3-D Spectrograph and an Imaging Fabry-Perot" Emission Lines in Active Galaxies. IAU159. 355-356 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.Nakagawa: "Large Scate Far-Infrared[C II]Line Emission(印刷中)" The Galactic Center. 4-ESOCont. (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] F.Iwamuro: "Near Infrared Spectrophotometry of IRAS FSC 10214+4724" Publ.Astron.Soc.Japan. 47. 265-270 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nishimura: "Mid-Infrared Test Observation System for Subaru" Sci.and Engineer. Frontiers for 8-10m Tels.155-160 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nakagawa: "Deficit of Far-Infrared [CII] Line Emission toward Galactic Center" Astrophys.J.Letters. 455. L35-L38 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] G.Kosugi: "Spectro-Nebula-Graph : a tridimensional-spectroscopic system based on a local area network of personal computers" Publication of Astronomical Society of Pacific. 107. 475-482 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] G.Kosugi: "Tridimeniona spectroscopy of the Seyfert galaxy 3C 120" Method of Tridimensional Optical Spectroscopy in Astronomy, Proc.of IAU Colloquim No.149, Astronomical Society of Pacific. 205-206 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Yoshida: "Tridimensional observations of nearby activegalaxies using OAO Spectronebulgraph" Method of Tridimensional Optical Spectroscopy in Astronomy, Proc.of IAU Colloquim No.149, Astronomical Society of Pacific. 207-208 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.Mochizuki: "A Survey of the Large Magellanic Cloud in the [CII] 158 Micron Line" The Physics and Chemistry of Interesteller Molecular Clouds : Proc.of Second Cologne-Zermatt Symposium. 22 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] E.Egami: "Hawaii 167 and Q0059-2735 Heavily Dust Enshrouded Young QSOs" Astronomical Journal. 112. 73-80 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] F.Iwamuro: "Near-Infrared Spectrophotometry of 4C40.36" Astrophysical Journal Letters. 466. L67-L70 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Imanishi: "Spectroscopic Study of NGC1068 in the 3mum Band" Publicatious of Astron.Soc.Japan. 49. 69-73 (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.Aoki: "High Volecity Outflow in the Extended Emission-Line Region" Astronomical Journal. 111. 140-151 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] D.Tomono: "Near-Infrared Two-Wavelength Shift and Add." Solid State Sensor Arrays : Devlopment & Applicant. Proc.(in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nishimura: "Mid-Infrared Observation System (MIRTOS)" SUBARU News letter. 1・3. 10-11 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] H.Ohtani: "The Kyoto 3-D Spectrograph and an Imaging Fairy Perot" Emission Lines in Active Galaxies. IAU159. 355-356 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nakagawa: "Large Scale Far-Infrared [CII] Line Emission" The Galactic Center. 4-ESU Conf. (in press). (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より