大型スポレーションパルス中性子源を用いた中性子散乱による物質の動的構造研究

1996 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 07044100
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 高エネルギー物理学研究所
• 研究代表者: 池田 宏信 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 教授 (90013523)
• 研究分担者: 松尾 隆祐 大阪大学, 理学部, 教授 (00028185) ; 稲葉 章 大阪大学, 理学部, 助教授 (30135652) ; 梶 慶輔 京都大学, 化学研究所, 教授 (00026072) ; 金谷 利治 京都大学, 化学研究所, 助教授 (20152788) ; 大友 季哉 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 助手 (90270397) ; 加倉井 和久 東京大学, 物性研究所, 助教授 (00204339) ; 古坂 道弘 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 助教授 (60156966) ; 伊藤 晋一 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 助手 (00221771) ; STEIGENBERGE ユー・イー ラザフォードアプルトン研究所, グループリーダー ; 新井 正敏 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 教授 (30175955) ; 池田 進 高エネルギー物理学研究所, ブースター利用施設, 教授 (80132679) ; 三沢 正勝 新潟大学, 理学部, 教授 (80005941) ; 神山 崇 筑波大学, 物質工学, 講師 (60194982) ; 浅野 肇 筑波大学, 物質工学, 教授 (90005934) ; 柴田 薫 東北大学, 金属材料研究所, 助手 (60183836) ; 本河 光博 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30028188) ; 山田 和芳 東北大学, 理学部, 助教授 (70133923) ; 神木 正史 東京都立大学, 理学部, 教授 (30004451) ; 遠藤 康夫 東北大学, 理学部, 教授 (00013483)
• 研究期間 (年度): 1995 – 1996
• キーワード: pulsed neutron scattering / chopper spectrometer / magnetic excitations' / amorphous system / high-Tc superconductor

研究概要

本研究は、「連合王国科学工学会議(SERC)及び日本高エネルギー物理学研究所(KEK)間のラザフォードアプルトン研究所(RAL)スポレーション中性子源(ISIS)を用いた中性子散乱研究に関する協定」(1986年12月締結)に基づく研究を実施することを目的としている。この協定に基づき、我々はわが国の予算により高性能チョッパー型分光器MARIをISISに設置(平成元年度)し、これまで原子炉中性子利用によっては達成できなかった新しい中性子散乱研究の開拓をめざして本格的な実験研究を開始した。
平成7年度から8年度にわたって、乱れた系のダイナミクス、低次元磁性体の量子効果、高温超伝導体及びその関連物質の磁気励起と格子振動、水素結合物質の相転移機構、等の研究を中心にして共同研究を実施したが、以下のような重要な成果が得られた。
フラクタル構造をもつ系の動的性質がはじめて明らかにした。パーコレーション磁性体を用いた高エネルギー分解能実験により、フラクタル格子上を拡散する粒子の異状拡散現象がはじめて観測された。またフラクタル格子固有の非線型励起であるフラクトンが、長波長領域でのスピン波にクロスオーバーしていくことがはじめて確認された。これらの研究によって、強く乱れた系が秩序をもつ場合の原子レベルでの運動の形態が明らかにされつつある。
また、酸化物高温超伝導の発現機構に関連した研究において、超伝導転移温度よりもはるかに高い温度で銅原子の緩和時間の異常が発見され、この異常とスピン一重項形成との関連が議論を集めている。このため、YBa_2Cu_3O_<6.6>の局所構造の温度変化を測定した。これにより、CuO_2面内のCuとOの距離が対応する温度で変化することが認められ、スピン一重項形成の可能性が強く示唆される結果を得た。詳細な研究は今後の課題である。さらに、この系における高エネルギー磁気励起の存在が初めて捉えられ、銅原子の磁気揺動と高温超伝導メカニズムの関連についての議論に対して基本情報を与えた。
さらに、磁性体における新奇な量子効果発現機構の解明が世界的に競って行なわれているが、2本足梯子格子においてエネルギーギャップの存在が確認された。これは磁気的な基底状態がシングレット状態にあることを示しており、酸化物高温超伝導の発現機構に関連した研究として注目されている。また、1次元反強磁性体のスピン波励起にあらわれる量子効果がスピン値(S)とともにどのように変化するかという問題を解くことを目的とした研究が行なわれた。S=1の系ではハルデーンギャップと呼ばれるシングレット状態が、また、S=3/2の系ではスピン波の励起エネルギーの増大効果が観測された。
また、非晶質ガラスの構造決定は応用の上でも重要であるが、今回非晶質Seを2種類の方法(液体急冷法とメカニカルミリング法)で作成し、低エネルギー領域における原子振動エネルギー状態密度の相違を検出した。静的構造に相違が見られない二つの試料で、何故励起状態が異なるのかの問題提起がなされている。このような研究が可能となった背景には、MARIでは散乱強度を運動量のみならずエネルギーの関数として求めることができる唯一の分光器といては開発されたからには外ならない。
水素は、誘電体や化学物質、また、DNAをはじめとする生体物質中の構成要素であるばかりでなく、その機能を決定する上で重要な原子である。中性子の非干渉性散乱強度を測定することによって、水素の波動関数の実空間分布を知る試みがなされた。これによって、長年の謎であったKDP等の相転移機構が明らかにされた。
その他、蛋白質の折り畳み構造と生体機能の関連を調べるための局所構造の振動的性質、に関する実験など多数の研究を実施した。

研究成果

• [文献書誌] H.Ikeda: "Reply to Comment" Phys.Rev.Lett.77. 403 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.Iwasa: "Magnetic Excitations and Spin Correlations in Two-Dimensional Percolating Ising Antiferromagnets" J.Phys.Soc.Jpn.65. 1038-1042 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Choul-Ho Lee: "Anomalous Breaking of Phonon Softening in the SUperconducting State of La1.85 Sr0.15CuO4" Physica C. 257. 264-270 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Arakawa: "Anomalous Structure and Phonon Dynamics in La1.85Sr0.15CuO4" J.Low Temp.Phys.105. 819-824 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Arakawa: "Structure and Phonon Anomaly in La1.85Sr0.15CuO4" CZEC.J.of physics. 46. 1239-1240 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Arai: "Quantum Spin Excitation of a Spin-Peierls System CuGeO3" Phys.Rev.Lett.77. 3649-3652 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Arai: "High Energy Spin Excitation of a High-Tc Superconductor La1.85Sr0.15CuO4" CZEC.J.of physics. 46. 1147-1149 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Arai: "Structural Instability of High-Tc Superconductor La1.85Sr0.15CuO4" Physica B. 219&220. 225-227 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nishijima: "Dynamical Structural Instability in YBa2Cu3O6.6" J.Low Temp.Phys.105. 837-842 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nishijima: "Investigation for the Dynamical and Local Structure of the YBa2Cu3O6.6" CZEC.J.of Physics. 46. 1241-1242 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Nishijima: "Phonon Anomaly of Under-Doped YBa2Cu3O6.6 Studied by Neutron Scattering" Physica B. 219&220. 204-206 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Fujita: "Lattice Anomaly and Dynamics of CuGeO3" Physica B. 219&220. 95-97 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Fujita: "Quantum Effect on Magnetic Excitation" CZEC.J.of Physics. 46. 1965-1966 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Motokawa: "Cu-Ag Alloy Bitter Type Magnet for Repeating Pulsed Field" IEEE,Trans.on Magnetics. 32. 2534-2537 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukuda: "Dynamical Magnetic Structure of the Spin Density Wave State in Cr" J.of Phys.Soc.Jpn.65. 1418-1426 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] A.Hiramatsu: "Investigation on Permanently Densified Bitreous Silica by Means of Neutron Scattering" Physica B. 219&220. 287-289 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Egami: "Unoconventional Electron-Phonon Interaction and Anharmonicity in Superconducting cuprates" Physica B. 219&220. 145-147 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] D.Welz: "Magnetic Excitations and Quantum Fluctuation in the Covalent-Chain Antiferromagnet TIFEs_2" Europhysics Letters. 34. 293-298 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Chemical Short-Range Structure of Ti-Ni-X (X=V,Cu) Amorphous Alloys" Sci.Rep.Res Inst.Tohoku Univ.A42. 39 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Structure of Supper-Deposited VSi Amorphous Alloys" J.Non-Cryst.Solids.205-207. 660-664 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Structure of Amorphous Se Prepared by Milling" J.Non-Cryst.Solids.205-207. 531-535 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Exprimental Studies of Atomic Structure, Electronic Structure and Electronic Transport Mechanism in Amorphous Al-Cu-Y and Mg-Cu-Y Ternary Alloys" Phys.Rev.B. 54. 3200-3210 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Present Results at KEK and Future Expectations in the Study of Liquids and Amorphous Materials (overview)" Proc.Int.Workshop on Science in Neutron-Area of JHP. 81-86 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Formation of an Amorphous Single Phase of PVA Subjected to Mechanical Milling (in Japanese)" Kobunshi Ronbunshu. 53. 665-669 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] R.Ishii: "Density Dependence of Structure of Supercritical Carbon Dioxide Along an Isotherm" J.Chem.Phys.105. 7011-7021 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.Nagano: "Amorphization of PVA Powders by Mechanical Milling (in japanese)" J.Powder & Powder Met.43. 726-730 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.Nagano: "Structual Change of Graphite Subjected to Mechanical Milling (in Japanese)" J.Powder & Powder Met.43. 738-741 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Y.Hokari: "Amorphization of Se-S Powders Subjected to Mechnical Alloying (in Japanese)" J.Powder & Powder Met.43. 722-725 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] S.Ikeda: "Hydrogen Motions in Short HydrogenBonds" J.Korean Phys.Soc.29. 401-404 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] S.Ikeda: "Hydrogen Potentials in Hydrogen Bonded Compounds" Physica B. 226. 207-209 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] S.Ikeda: "Hydrogen Potentials and Wave Functions in KDP and KHCO3" Physica B. 219&220. 644-646 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] H.Ikeda: "Spin Dynamics in Fractal Magnets (in Japanese)" Proc.Phys.Soc.Jpn.51. 115-118 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.Fukunaga: "Observation of Nitrogen Induced Amorphization of the V-Cu System by EXAFS,X-Ray and Neutron Diffractions" Sci.Rep.Res Inst.Tohoku univ.(in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Arai: "Dynamic Structure Factor of Non-crystalline and Crystalline System as Revealed by MARI,a Neutron Chopper Instrument" Advances in Colloid and Interface Science. (in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.Arai: "High Energy T-O-F Spectroscopy on Quantum Spin Systems" Physica B. (in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] H.Ikeda: "Interdisciplinary Research with High-Intensity Proton Accelerator (in Japanese)" Proc.Phys.Soc.Jpn.(in press). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より