研究課題
国際学術研究
遺伝子の転写制御の基本機構は、転写酵素RNAポリメラーゼが、さまざまの転写因子と相互作用した結果、転写をする対象遺伝子の選択を変換することによっている。従って、実際に転写に関与するRNAポリメラーゼは、転写因子と複合体を形成した、「転写装置」である。転写因子とRNAポリメラーゼの分子間コミュニケーションの実体を解明する目的で、本研究では、転写因子の種類と量、転写因子との相互作用に伴うRNAポリメラーゼの機能変化、RNAポリメラーゼ上の転写因子接点、転写因子上のRNAポリメラーゼの接点の同定を目指した。連合王国側共同研究者は、それぞれ転写因子の専門家であり、日本側のRNAポリメラーゼ研究者との協業を希望し、本国際共同研究が成立した。大腸菌では、RNAポリメラーゼは、転写因子との2段階の相互作用で、機能変換を示すが、第一段階の転写因子(シグマ因子)については、これまでに存在が示唆されていた6種類の内の、5種類について、細胞内の濃度を測定し、ま た、純化蛋白を得てRNAポリメラーゼの機能特異性にあたえる影響を調べた。特に、従来殆ど実態不明であった、異常環境での遺伝子転写に関与する、微量のシグマ因子(シグマ54、シグマ38、シグマ32、シグマ28)を初めて 単籬精製し、その支配下の遺伝子転写を実証し、しかも、その反応には、異常環境時に細胞内に醸成されると予想される、特殊な条件が必要であることを明かにできた。一方、第二段階の転写因子群の相当数について、RNAポリメラーゼ各サブユニットに変移を導入することで、これら転写因子との接触不能となり、遺伝子制御が出来なくなることを指標にした、組織的スクリーニングを行った。その結果、アルファサブユニットのC端領域に一群の転写因子(クラス1転写因子と命名)との接点を同定し、その領域各アミノ酸の役割を決定した。また、この領域を含む蛋白ドメインの三次元構造を決定し、転写因子と接触するアミノ酸の配置を決めた。そのうえに、この領域がDNAのエンハンサーをも認識するサイトであることを実証した。これは、蛋白因子とDNA制御シグナルのいずれをも認識する。新しい蛋白機能域の発見となった。一方、RNAポリメラーゼの他のサブユニット、シグマ、ベタ-およびベタ-プライム上にも他の転写因子との接点のクラスターが存在する予備的結果を得、それぞれ、クラス2、クラス3、クラス4転写因子と命名した。この間の研究で、大腸菌の約100種類の転写因子全ての接点を同定する方向の研究の基礎を築き、軌道に乗せた。
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