研究分担者 |
JONES Russel カリフォルニア大学, バークレー校・植物学科, 教授
LEMAUX Peggy カリフォルニア大学, バークレー校・植物学科, 助教授
GRUISSEM Wil カリフォルニア大学, バークレー校・植物学科, 教授
FISCHER Robe カリフォルニア大学, バークレー校・植物学科, 準教授
BUCHANAN Bob カリフォルニア大学, バークレー校・植物学科, 教授
小俣 達男 名古屋大学, 農学部, 助教授 (50175270)
前島 正義 名古屋大学, 農学部, 助教授 (80181577)
町田 泰則 名古屋大学, 理学部, 教授 (80175596)
杉浦 昌弘 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 教授 (80027044)
杉山 達夫 名古屋大学, 農学部, 教授 (50023453)
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研究概要 |
植物の分子生物学はこの数年の間に急展開をとげ、植物の細胞機能分化の制御や個体発生と生長、形態形成などの高次の制御機構に目が向けられる一方で、作物の環境適応性や生産性の改良などの農学への応用も積極的に推し進められつつある。こうした急速に発展しつつある学問領域では、国際的な共同研究による最新の情報や技術の緊密な交換が極めて重要である。カリフォルニア大学バークレー校(UCB)のDepartment of Plant Biologyは24名のファカルティーを擁し、植物科学分野で全米で屈指の高いレベルにある。名古屋大学(NU)の農学部、理学部とUCBの植物科学分野の研究者は約20年間の長きに渡って研究交流を深めてきたが、本研究では研究者の間の交流関係を一層推進するために、植物の個体生長と細胞機能の制御機構に関わる分子生物学及びモデル植物の分子遺伝学、そしてバイオテクノロジー分野での共同研究と研究交流を推進することを目的とした。 具体的に取り上げた研究項目で、以下のような成果が得られた。 1)シンク機能制御とカルシウム情報伝達 シンクとソース機能の制御に関して、NUの中村は糖による遺伝子発現制御にCa^<2+>-情報伝達系が関与することを示していたが、NUの杉山は葉での硝酸による遺伝子発現制御にもCa^<2+>-情報伝達系が関与することを示し、植物におけるCa^<2+>-情報伝達系解析で既に顕著な実績を挙げているUCBのJonesとの研究討論、情報交換が大いにプラスとなった。Jonesはオオムギ種子のアリューロン層の機能発現に特定のカルモジュリン分子が関与する可能性を示し、中村はタバコ葉のカルシウム依存性プロテインキナーゼ(CDPK)が多重遺伝子に支配された多型成分よりなり、糖誘導性の特異な細胞膜結合型CDPKを約1,000倍に部分精製した。 2)ソース機能制御 NUの杉浦とUCBのGruissemは葉緑体遺伝子のin vitro発現系に関して活発な情報交換を行い、杉浦らは葉緑体抽出液によるin vitro翻訳系を、またGruissemらはpre-mRNAプロセシング系を開発した。 3)液胞機能 NUの前島とUCBのJonesは相互訪問を数度行う中でCa^<2+>-トランスポーターやCa^<2+>-チャンネルに関する研究を進め、前島は後者のcDNAを同定し、Jonesは急速冷凍法による顕微鏡観察によりオオムギ種子のアリューロン層の細胞内に多様な液胞や小胞様のユニークなオルガネラを見出し、前島の調整した液胞膜特異タンパク質に対する抗体を使った研究を進めた。 4)情報伝達因子 CDPKやカルモジュリンに関する成果に加え、NUの町田は組織の切断が短時間の内に46-kdのプロテインキナーゼを活性化することを見出し、UCBのGruissemがイノシトールリン酸代謝酵素遺伝子を単離するなどの成果を得た。 5)モデル植物(シロイヌナズナ)の分子遺伝学 UCBのFischerはT-DNAタッギングラインからの胚発生に関する突然変異の解析を進め、胚発生に関与するBelll遺伝子がホメオドメインタンパク質をコードすることを明らかにし、NUの町田は生長速度が著しく遅くなった変異株を単離して原因遺伝子を同定し、中村も糖応答性が異常になった突然変異株を単離した。 6)バイオテクノロジー 基礎的分子生物学の育種への応用についても討議され、NUの中村の開発したイネの形質転換にも有効なベクター系がUCBのBuchanan,Lemauxに供与され、アグロバクテリウム感染によるムギの形質転換が試みられている。 相互派遣計画は当初予定から多少の変更を余儀なくされたが、以上のような活発な情報交換によって共同研究は順調に進行した。それに加えて、分担者の相互訪問や公開セミナーを通して、分担者以外でそれまで交流のなかったNUとUCBの研究者の間での頻繁な情報交換、研究試料やプロトコルの交換が行われ、更に研究交流を発展させようとの機運が高まった。
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