研究課題/領域番号 |
07044203
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西本 毅治 九州大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10037426)
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研究分担者 |
ROTHMAN Joel ウィスコンシン大学, 生化学教室, 助教授
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研究期間 (年度) |
1995
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キーワード | 細胞死 / 温度感受性変異 / DAD1 / グリコシレーション / 糖鎖修飾 / OST2 / 線虫 |
研究概要 |
計画的細胞死の分子レベルでの研究が最近スタートした。細胞死はこれまでの生物学の分野で分子レベルの研究が遅れたものの一つである。しかし、その現象は免疫機構の確立、発生と分化、癌の治療と多方面に関連をもつ大切な生命現象であることが、明らかにされている。我々は本研究において、この問題にアポトーシスの抑制の分子機構と言う、新しい局面より切り込みを入れた。 アポトーシスは多細胞生物が個体を形成するときに必須な制御機構である。アポトーシスによる細胞死には多様な経路があると推測されており、現実に色々な細胞死促進因子が同定されつつある。これらの因子の相互関係を分子レベルで明らかにするにはアポトーシスに至る経路の遺伝解析が必須である。アポトーシスの経路にはこれを抑制する機構と促進する機構があると推定される。後者の欠損は細胞のアポトーシスからの回復つまり細胞の長期生存をもたらすものと思われるが、前者の欠損は細胞の死をもたらすのでその変異は細胞増殖の温度感受性変異として分離され得る。我々はこれまでに我々の手でハムスター由来のHK21細胞より分離された細胞増殖の温度感受性変異株を用いて細胞周期の制御機構を研究してきた。最近、これらの変異株のあるものは制限温度でアポトーシスを起こして死ぬことを発見した。そしてその内の一つである、タンパク合成依存的に制限温度でアポトーシスをおこす変異tsBN7を相補するヒト遺伝子DAD1を分離した。tsBN7株ではこの遺伝子が変異しており高温でDAD1タンパクは失われる。その結果、アポトーシスが起こった。タンパクが消失することでアポトーシスが起こったのでこのタンパクは細胞死の抑制に寄与していると推定された。このことを証明するため、Rothman博士のグループとの共同研究でこの遺伝子を線虫で過剰発現した。するとBd遺伝子ほど強力ではないが線虫の神経組織の計画的細胞死が明らかに有意に抑制されることが明らかになった。 Rothman博士らはさらに線虫においてこの遺伝子を破壊して線虫の計画的細胞死の抑制に機能していることを証明するため、線虫のDAD1遺伝子相同体を分離している。我々はこの線虫DAD1がtsBN7変異を相補することを明らかにした。その上で、Rothman博士等は線虫のDAD1遺伝子破壊株を作成することを本年度において鋭意努力したが目的の破壊株はまだ得られていない。もしこれが分離されるとDAD1遺伝子が計画的細胞死に関与しているか否かが証明されその上で、DAD1破壊株より細胞死を起こさない変異株を新たに分離し、DAD1遺伝子の下流で実際に細胞死を起こしている遺伝子を明らかにされることが期待されている。 我々は動物細胞におけるDAD1の機能を明らかにするために、これと相互作用するタンパクを酵母のtwo-hybridシステムを用いて分離することを試みたがこれはまだ成功していない。昨年、DAD1タンパクが酵母のN-linkedglycosylationの欠損をもたらすost2変異を相補するOST2遺伝子によってコードされるタンパクと相同であることが他のグループより明かにされた。彼らは犬細胞のOST複合体を分離精製していたので我々のDAD1タンパクを送って確かにDAD1がこの複合体の一因子であることが証明された。そこで、我々はtsBN7細胞を制限温度に置いた時にglycosylationの阻害が起こるか否かを調べ確かに高温でglycosylationが阻害されていることが判明した。この結果、tsBN7はglycosylationの温度感受性変異であることが確定した。つまり、細胞死の抑制もさることながらこの変異株は糖鎖修飾の生理的意義を研究するに適した変異株であるといえる。さらに、詳細にDAD1タンパクの細胞内の部位をしらべER膜にあることがほぼ確定された。DAD1がglycosylationに関与することが明らかになったことに鑑み、夫々のグループがこの観点よりもう一度、DAD1タンパクの機構を調べその結果を持ち寄って今後の研究方針を討論することにし11月に福岡で全ての共同研究者が一同に会した。そこでは糖鎖修飾とアポトーシスの関連が問題になったが糖鎖修飾の阻害剤でもやはりアポトーシスが誘導されるか否かを西本等は研究しRothman博士のグループはDAD1遺伝子破壊を持つ線虫の作成を継続することにして別れた。
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