研究概要 |
ミトコンドリア遺伝子異常による難聴 (1)1555位変異の検討 当科で経過を追っている家系に過去にアミノ配糖体抗生物質の投与歴のある患者が多く、母親から子供に遺伝しているケースが父親経由で遺伝しているケースの約3倍あったことからミトコンドリアDNAの1555位の変異(mutation)によって難聴が起きている可能性が示唆された。ミトコンドリアDNAの変異の有無に関し検討した結果、10家系に1555A-G変異が存在することが明かとなり、これらの症例の1555A-G変異の解析結果と臨床データに関して報告を行った(Usami et al.,Laryngoscope,in press)。 (2)1555位変異家系におけるミトコンドリア遺伝子の多型 ミトコンドリア遺伝子の1555点変異は特にアジア系民族に重要な遺伝子異常である可能性が高いと考えられている。ミトコンドリア遺伝子においては進化の過程で起こる塩基置換の速度が核遺伝子に比較し速く、多くのミトコンドリア遺伝子の多型が存在する。今回1555変異を持つ患者のミトコンドリアDNAの多型について解析を行い、1555変異を持つ11家系に共通する他の点変異の有無、あるいは進化的側面からみた1555変異の位置付けを行った。抽出したミトコンドリアDNAにおける11ケ所の点変異の有無に関し8種類の制限酵素を用い、PCR-RFLP法にて検討した。またアジア人に特異的とされる9bp-deletionの有無の検討やD-loopの塩基配列から変異の確認を行った。これらの遺伝子解析により1555変異を持つ家系がいくつかのグループに分類出来、共通祖先や進化の過程を探る手掛かりとなりうることを報告した(Abe et al.,ARO meeting,1997,2 St.Pete Beach,FL,USA)。 (3)3243位、7445位変異の検討 難聴に関連することが明らかになっているミトコンドリアDNAの点変異である3243位、7445位変異の検討を約300例の難聴患者に行ったが変異を持っている患者は認められなかった。3243位変異は糖尿病症例の約1%に存在するとされるが、難聴患者に占める割合は比較的少ないと思われた。 2 Non-Syndromic hearing loss/常染色体劣性遺伝 (1)表現型からの分類 聴力像から、3つのタイプに分類されることが明らかとなった。 第一のグループは高音障害型の難聴で中低温は軽度障害されるのみで緩やかに進行するが成人期になると進行は停止するのが特徴である。一般に常染色体劣性遺伝の研究は遺伝子のheterogeneityのために原因遺伝子の特定が困難であったが、前述のように当地方は従来、人の交流が少なく、遺伝子のhomogeneityが保たれている可能性が高い。今回、検討した家系のうち「工藤」家が6家系あったがそのうち5家系がこのグループに属することは興味ある結果と思われた。このいわゆる「工藤」タイプの難聴が同一の原因遺伝子によるものである可能性が示唆され、今後中耳、内耳の奇形の有無、前庭機能障害の有無などの臨床データの検討とともにポジショナルクローニングによる原因遺伝子の特定を目指す予定である。第2のグループは水平型(ときにはやや高音漸傾型、低音障害型)の軽度難聴を示すグループで非進行性であるのが特徴である。第3のグループは高度難聴型であるがこのタイプを示す家系は数家系のみであり当地方には比較的少ないタイプの難聴であることが示唆された。 (2)前庭水管拡大を伴った難聴症例の遺伝子解析 前庭水管拡大を伴った難聴のうち常染色体劣性遺伝子形式を取る難聴に関し注目し、3家系の臨床データを解析し報告した(Abe et al.,Annals Otol Rhinol Laryngol,in press)。原因遺伝子の特定を目指し現在種々のマーカーを用いスクリーニングを行っているが現在までのところ遺伝子座は明らかになっていない。
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