研究課題
我々は、本年度の研究で赤血球分化に関与する転写因子の一つNF-E2について次のようなことを明らかにした。(1)マウス赤白血病(MEL)細胞の分化過程でヘム合成がNF-E2に影響を及ぼすが、その影響は転写レベルよりもむしろ活性レベルが大きい。(2)MEL細胞ではエリスロポエチン受容体の情報伝達が常に起こっているにも関わらず赤血球分化は化学的刺激が無ければ起こらないことが知られている。そのMEL細胞にNF-E2を過剰発現したところ赤血球へ分化が認められた。従って、赤血球分化へのクリテイカルな因子の一つがNF-E2であることが明らかになった。(3)ヘムの供給を抑制するために標点変異法で赤血球型のδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS-E)を欠損させたES細胞を作製し、赤血球系転写因子群および赤血球系の形質の発現を調べたところ全く正常であった。(4)また、ALAS-E欠損の形質を50%以上持っているキメラマウスで貧血の傾向は認められなかった。従って、ALAS-Eと貧血・特に鉄芽球性貧血のとの間の関係にはまだ未発見の要素が存在する。(5)この間を説明するモデルとして薬剤性の鉄芽球性を解析したところ、赤血球型転写因子の発現の異常が認められた。このことは、遺伝性の鉄芽球性貧血におけるALAS-Eの活性の低下は二次的なものである可能性を示唆している。そこで、更に解析を進めている。これらの研究のほかに、我々は(6)ヘム合成系酵素の先天性欠損症(ポルフィリン症)の分子診断、あるいは(7)肝臓におけるハウスキーピング型のヘム代謝調節と酸素、(8)ラットハーダー氏腺における特異なヘム代謝調節機構の解析などを行なっている。
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