研究分担者 |
真貝 洋一 ハーバード大学, 医学部 日本ロシュ研究所・生物学部, 助教授 汞席研究員
TULSIANI Dau バンダービルト大学, 医学部, 準教授
ORGEBINーCRIS クリスト マリークレア バンダービルト大学, 医学部, 教授
MARIE-CLAIRE Orgebin-Cri Vanderbilt University School Of Medicine Professor
DAULAT Ram P.Tulsiani Vanderbilt University School Of Medicine Associate Professor
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研究概要 |
ヒトを含めた哺乳動物の受精機構の解明は、種の存続という生物学上極めて重要な問題に直接関与し、また、不妊症治療上にも大きく貢献する知見を得る事が期待される。哺乳動物の配偶子、特に精子は精巣で形態形成後、精巣上体内で様々な生化学的修飾を受け、その結果受精能を獲得する事が知られている。一方卵は、透明帯(ZP)と呼ばれる糖蛋白質の膜様物質におおわれたまま排卵される。ZP上には種特異的な精子に対するリガンド(糖鎖と広く信じられている)が存在すると考えられているが、その発生学上のoriginや分子としての性状,更に精子-卵相互認識の分子機構については未だ不明の点が少なくない。排卵後、卵は殆どの種において卵管内で精子と出会い受精が成立する。卵管は、受精がまさにおこる場でありながら、これまでreproductive tractと呼ばれている事からもわかる様に子宮と一括して総称され、子宮が受精卵育成の場として注目される存在であるのに対し、単に配偶子の通路以上の立場は与えられていなかった。この存在感のなさは近年ヒトを含めた多くの哺乳動物で体外受精により、全く卵管因子に配偶子が曝される事なしに正常児を得ることが出来るという事実もあって、受精.着床といったreproductionの過程で卵管が必ずしも必須の器官ではないとも考えられ、あまり注目される事もなく地味な存在であった。 一方、1980年代半ば頃より、種々の哺乳動物で卵管液中にestrogen dependentな分泌を示す糖蛋白質が存在し、卵(ZPを含む)を修飾する事が示され、その生殖生理学的な意味は不明ながら、その組織内における発現様式、性ホルモン依存性などからreproduction過程に重要な生理活性を示す物質である可能性が推定されてきた。これらの動物のうちハムスターでは平均分子量約200kDaの糖蛋白質がZPに排卵後卵管内で結合する事を我々は明らかにした。この分子はヒトA型血液型物質のα GalNAc(1-3)[α Fuc(1-2)]β Galを持つ末端糖鎖を有する高度(>70%)にglycosylationされた糖蛋白質で1.同分子を認識するモノクロナール抗体による受精の阻止、2.精製された同物質を添加した体外受精系の受精率の改善、3.同分子の精子への修飾、などを我々は報告し、この物質の生殖過程における関与について間接的な証
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拠を示しているが、詳細はなお不明である。 最近、米国で開発された遺伝子相同組み換えによる特定遺伝子欠損マウスは、生体内においてその遺伝子産物の機能を多面的に解析する上で極めて優れたモデルである。本研究では、このマウスを用いて、卵管特異糖蛋白質の生殖生理学的活性の解明を試み、真の生殖生理学的活性の解明を目指し共同研究が始められた。今年度はこの研究課題に関連して以下の結果を得た。 1.ハムスター・マウスにおける卵管特異糖蛋白質のcDNAのクローニングに成功しその結果より、齧歯類の同物質の分子性状を明らかにした。2.マウスGenomicクローニング及びgemone DNAに対するdirect long PCR法により、同分子の遺伝子構造解析を試みた結果、同遺伝子は約13kbp長あり、12exonより構成されていた。Ser/Thr残基を多量に含むマウス卵管特異糖蛋白質に特徴的な繰り返し構造に対応する遺伝子ははexon10上に存在している事が判明した。3.齧歯類においても同分子の遺伝子発現はエストロゲン依存性に分泌される事がin situ hybridization法を用いて確認された。4.卵管・子宮液中の糖修飾酵素活性はglycohydrolases (acidic α-D-mannnosidase,β-D-galactosidase,β-D-glucuronidase,β-D-glucosaminidase,α-L-fucosidase)は性周期において特に有意な差を認めず、またその活性は低いのに対し、glycosyltransferases (sialyltransferase,fucosyltransferase,galactosyltransferase,N-acetylglucosaminyltransferase)は排卵期に一致して急激な活性の上昇を認めた。 これらの糖転移酵素は配偶子の表面糖鎖構造および卵管特異糖蛋白質の糖鎖構造に影響を与える可能性が高く、またこれらの酵素は従来sperm-egg interactionにおける重要性が提唱されており、卵管微小環境における配偶子表面の糖鎖構造、また受精の場(卵管)における特異糖蛋白質の生殖生理学的役割を考える上で興味深い事実と思われる。研究助成が単年度に限定されているため当初複数年度で予定していた同分子欠損マウスの作製までは至らなかったが、研究計画は順調に進んでおり、今後は実際に本題である遺伝子相同組換えを用いて同分子欠損マウスを作製し、in vivoでの同分子の生殖生理学的活性の解明のための一連の実験を遂行する予定である。 隠す
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