研究課題
国際学術研究
マクロファージのスカベンジャー受容体の機能と動脈硬化発症への関与の解明を目指して、日本、米国、英国、フィンランドの共同研究が行われた.まず東大児玉らによりスカベンジャー受容体ノックアウトマウスが作成された.このマウスはオックスフォード大学に輸送されGordon教授により、マクロファージのEDTA抵抗性接着能力が低下していること、LPS投与後の生存率の低下が確認され、スカベンジャー受容体がマクロファージの接着と生体防御に関与していることが証明された.またスカベンジャー受容体欠損マウスから採取されたマクロファージは、アポトーシスをおこした胸腺細胞のファゴサイトーシス能力が正常マクロファージの半分に低下していた.この残存活性も、スカベンジャー受容体関連蛋白の競合阻害物質であるポリIやフコイダンにより抑制されるところから、残存するCD36、SR-B1、CD68などのスカベンジャー受容体関連蛋白によりになわれていることが判明した.アメリカのノースカロライナ大学Maeda教授より、アテローム性動脈硬化好発系マウスであるアポE欠損マウスが提供され、共同実験で、アポE/スカベンジャー受容体ダブルノックアウトマウスが作成され、アテロームの形成を解析したところ、スカベンジャー受容体欠損にもかからず、泡沫細胞は形成され、アテローム病変は進展することが判明した.しかしその内膜肥厚の程度はアポE単独ノックアウトに比べ、約30%低下しており、I型、II型の関与とその他のスカベンジャー受容体関連蛋白の関与の割合を示すとも考えられ今後の検討課題となっている.アメリカのハーバード大学のFreeman教授らによりスカベンジャー受容体のプロモーターにβ-GALを発現したコンストラクトをくみこんだトランスジェニックマウスを作成したところスカベンジャー受容体プロモーターはアテローム病変部に遺伝子を発現させる機能をもつことが証明された.今回の国際共同研究でもっとも大きな成果となったのは脳の細動脈にあるスカベンジャー細胞の解析である.抗スカベンジャー受容体モノクローナル抗体がGordonらにより作成され、脳での分布を検討したところ自治医科大学の間藤教授により18年前に提唱されたMATO細胞が脳のスカベンジャー細胞であることが再発見された.96年1月に東京で共同実験および研究打ち合わせ会をおこない、フィンランドのクオピオ大学のハ-チュアラ教授によりヒトの脳のMATO細胞によりスカベンジャー受容体のmRNAの発現が証明され、一方従来脳のスカベンジャー細胞である可能性が考えられていた、ミクログリアにはスカベンジャー受容体mRNAは発現していなかった.この成果は従来のリ-ス、カルノウスキーらによる脳血液関門を中心とする脳循環の概念を大幅に修正する必要性を示すものである.今回の国際学術共同研究の成果をもとにMATO細胞を含めた脳血管概念と脳動脈の硬化の発症機構はPNASの発表されることになり、国際的にも高い評価をうけることになった.
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