研究課題/領域番号 |
07044232
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
飯田 静夫 東京医科歯科大学, 医学部, 教授 (00009987)
|
研究分担者 |
YU Robert.K Dept. of Biochemistry and Molecular Bioph, 教授
瀧 孝雄 東京医科歯科大学, 医学部, 助教授 (10046295)
|
研究期間 (年度) |
1995 – 1996
|
キーワード | 運動ニューロン / 免疫性神経疾患 / 抗糖脂質抗体 / 糖脂質 / 自己抗体 / 神経系 / molecuular mimicry / nervous system / C.jejuni |
研究概要 |
運動ニューロン疾患は運動ニューロンが変成、脱落し進行性の四肢麻酔を来し死に至る難病である。病因として免疫学的異常が示唆されているがその本態は不明である。一方、神経組織にある糖脂質は神経の分化、機能維持に重要な役割を果たしていることが明らかにされ来た。我々は、多くの免疫性神経疾患に抗糖脂質抗体が出現することを見い出し、この抗体が神経組織に作用して疾患を惹き起こすことを提唱した。本研究では(1)発症機構を分子レベルで解明するため、運動ニューロンに特異的な糖脂質の発現と構造及び機能(2)発症に関連する抗糖脂質抗体産生の機序(3)抗糖脂質抗体の神経系に対する作用、を中心に研究を進めた。 その結果、運動ニューロン疾患の発症機序を分子レベルで解明すると云う目的に対して、多くの免疫性神経疾患で発症の機序として先行感染した病原体に対して産生された抗体、特に抗糖脂質抗体、が神経系の構成成分と反応して神経障害を起こす症例が知られており、このような場合には先行感染病原体と神経の構成成分の間に分子相同性があることを化学的、免疫化学的に実証する事ができた。ギランバレー症候群やフィッシャー症候群のかなりな数の患者では先行感染した菌、C.jejuni、の菌体成分LPSが末梢神経の構成成分である糖脂質のガングリオシドと分子相同性を持ち、このため感染菌に対して産生された抗体が自己抗体として神経を傷害することが明らかにされた。感染菌の菌株は細菌学的な分類とは別にLPSがガングリオシド系列の糖鎖を持つか否かで分類することが病因解明の為には重要であることが示された。先行感染の病原体がサイトメガロウイルスの場合は化学構造は未だ不明であるが抗糖脂質抗体と反応する成分を含んでいることが分かった。また末梢神経系に特異的に分布するグルクロン酸を含む硫酸化糖脂質に対する抗体が産生され、この抗体はミエリンに関連した糖タンパク質(MAG)とも反応するが、同様に神経系に対する自己抗体として作用し、発症するいくつかの疾患が明らかにされた。この場合、抗ガングリオシド抗体の場合と違って、抗原刺激となる物質については未だ不明であるが、Mタンパク血症で増量したMタンパクがグルクロン酸含有硫酸化糖脂質と反応する症例や、Mタンパク血症とは関係なく抗体価が上昇している症例のあることが明らかになった。 抗糖脂質抗体は直接神経系に作用して発症のきっかけになる。このことは、血管内皮細胞とアストロサイトを膜の両面に培養して作製した血液-神経関門モデルに抗糖脂質抗体を作用させると透過性が亢進して、高分子のものも透過できるようになり、血液-神経関門が破壊されること;糖脂質にたいする単クローン性抗体を作製して、神経組織や培養系モデルに対する作用させて、形態的、免疫学的、電気生理学的に検討すると抗体が直接神経系に障害を与えることが明らかであること;動物を糖脂質で感作して作製した動物モデルでは、抗糖脂質抗体価が上昇し、神経系に形態的変化が起こり、電気生理学的にも障害が認められること;などの結果から抗体の作用によって神経系の機能障害が起こることが実証された。一方、これら抗体の作用を受ける神経系での糖脂質の分布や化学構造を明らかにするため、ごく微量の糖脂質を免疫化学的、構造化学的に分析、解析する新しい方法を開発した。これらの方法を用いて分析の結果、神経系の糖脂質特にガングリオシドは細胞の種類によって分布パターンが異なり、細胞の分化や増殖に伴って変化することが示された。またこれら糖脂質の発現に関連した遺伝子を導入して強制的に発現させたり、種々の薬物で生合成活性を変化させたりすると神経細胞の形態、分化能等が変化することが認められ、人為的に発現を制御することも可能であることや糖脂質の発現が神経系細胞の機能制御に関連していることが示された。
|