膜結合型メタロプロティナーゼ(MT-MMP)と乳癌の転移

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07044240
• 研究機関: 金沢大学
• 研究代表者: 清木 元治 金沢大学, がん研究所, 教授 (10154634)
• 研究分担者: STEHELIN Dom Pasteur Institute, Lilly, Director ; MURPHY Gilia Strangeways Research Laboratory, Sinior Sci ; THOMPSON Eri Georgetwon University, Assistant ; 滝野 隆久 日本学術振興会, がん特別研究員 ; 達家 雅明 金沢大学, がん研究所, 助手 (50216991) ; 佐藤 博 金沢大学, がん研究所, 助手 (00115239)
• キーワード: MT1-MMP / MT2-MMP / MT3-MMP / 乳癌 / 浸潤・転移 / マトリックスメタロプロテアーゼ

研究概要

細胞外マトリックスは多細胞生物の組織構造を維持する為の物理的な骨組みであると同時に細胞増殖・機能制御にも重要な役割を果たす。組織の機能維持、損傷の修復や発生過程での組織改編を伴う器官形成時には細胞外マトリックス成分の合成と分解が必要であり、厳密に制御されている。がんではその両方に異常が有り、細胞外マトリックスの分解の亢進と不完全な産生が認められ、がんの浸潤・転移を容易にする。本研究では特に細胞外マトリックス分解系の亢進によるがん浸潤の実体を明らかにし、その制御法を開発することを目指している。本研究では特に、膜貫通構造を持つ新しいマトリックスメタロプロテアーゼ(MT-MMP)による潜在型マトリックスメタロプロテアーゼの細胞の表層での活性化機構に着目してヒトがん組織に於ける酵素の発現、基質となるゼラチナーゼAの活性化と悪性度との相関を調べた。
MT1-MMPと近縁のMT2-MMP、MT3-MMPについての検討も浸潤性乳癌に20例に対して始めて加えられた。Northern blottingによるmRNA発現がMT1-MMPでは前例で認められたのに対して、MT2-MMPは25%また、MT3-MMPは認められなかった。単クローン抗体による免疫染色に於てもMT1-MMPはがん細胞を中心に周辺の線維芽細胞の染色像が前例で認められたのに対してMT2-MMPは38%の症例で癌細胞中に認められたのみであった。また、様々なグループとの共同研究によって脳腫瘍、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、上咽頭癌でのMT1-MMPの発現が確認された。in situ hybridyzationによる発現細胞は大腸癌、胃癌では癌細胞自身と周辺の線維芽細胞であった。しかし、乳癌では癌細胞に於けるシグナルは弱く、境界面の間質での強発現が認められた。

研究成果

• [文献書誌] Itoh,M.,Sato,H.,Seiki,M.et al: "Purification and refolding of recombinant human proMMP-7 expressed in Escherichia coli and its characterization." Journal of Biochemistry. 119. 667-673 (1996)
• [文献書誌] Polette,M.,Seiki,M.et al.: "MT-MMP expression and localization in human lung and breast cancers." Virchows Arch.428. 29-35 (1996)
• [文献書誌] Sato,H.,Seiki,M.et al.: "Cell surface binding and activation of gelatinase A induced by expression of membrane-type1-matrix metalloproteinase." FEBS Letters. 385. 238-240 (1996)
• [文献書誌] Kinoh,H.,Sato,H.,Seiki,M.et al.: "MT-MMP,the cell surface activator of proMMP-2 is expressed with its substrate in mouse tissue during embryogenesis" J.Cell Science. 109. 953-959 (1996)
• [文献書誌] Gum,R.,Sato,H.,Seiki,M.et al.: "Stimulation of 92-kDa gelatinase B promoter activity by ras is mitogen-activated protein kinase kinase." J.Biological Chemistry. 271. 10672-10680 (1996)
• [文献書誌] Sato,H.,Seiki,M.et al: "Activation of a recombinant membrane type a matrix metalloproteinase by furin and its interaction with TIMP-2." FEBS Letters. 393. (1996)