研究分担者 |
KAMHAWI Shad ヤルモク大学, 理学部, 助教授
CHO SeungーYu カソリック医科大学, 教授
LIU Yueーhan 重慶医科大学, 教授
CRAIG Philip サルフォード大学, 生命科学部, 教授
SCHANTZ Pete アメリカ国立感染症防圧センター, 副部長
FLISSER Ana メキシコ国立自治大学, 医学部, 教授
岡本 宗裕 大阪大学, 医学部, 助手 (70177096)
伊藤 誠 愛知医科大学, 助教授 (90137117)
堀井 俊宏 大阪大学, 微生物病研究所, 助教授 (80142305)
|
研究概要 |
難治性寄生虫病(エキノコックス症、嚢虫症)は、近年世界各地で流行が拡大しており、WHOの新興感染症についての最新の報告書 Emerging and other communicable diseases: strategic plan 1996-2000(WHO/EMC/96.1)においてもHIV/AIDS,Ebola,dengue,drug resistant bacterial infections その他と一緒に echinococcosis,zoonoses として取り上げられている。本研究の目的はこれらの寄生虫病(多包虫症、単包虫症、嚢虫症)についての血清学的鑑別診断法の確立である。本研究の基礎成績として多包虫症に特異性を有すと期待される Em18,Em16 と名付けた抗原(Ito et al.1993,Trans.Roy.Soc.Trop.Med.Hyg.87,170-172)に着目し、これら2成分の鑑別診断上の有用性についてのイムノブロット法による評価を試みた。評価の対象は(1)治療を必要とする進行性の病巣を有している症例と、瘢痕病巣のみを有している、自然治癒症例との血清学的鑑別、(2)これまでの報告で、血清学的に鑑別が非常に困難な単包虫症、嚢虫症との血清学的鑑別であった。多包虫抗原の一成分 Em18を診断マーカーとするイムノブロットにより(1)、(2)の問題を解決するのに十分な成績が得られた(Ito et al.1995,Am.J.Trop.Med.Hyg.52,41-44,Wen et al.1995,Ann.Trop.Med.Parasitol.89,485-495,Ito et al.1997,Jpn.J.Med.Sci.Biol.in press)。多包虫症はヒトのみならず家畜動物、野生動物をも中間宿主とすることから、ヒトにおける血清診断法をこれらの動物にも応用可能かどうかについても解析を加え、基本的には可能であるという成績を得ている(Ito et al.1994,J.Helminthol.68,267-269,Ito et al.1995,J.Helminthol.69,369-371,Ito et al.1996,J.Helminthol.70,355-357)。 以上の成績に基づき、等電点電気泳動法によってEm18を主成分とする分画の作製
… もっと見る
を試みた。これまでのところEm18とEm16とが混在した分画として得られている部分精製抗原ではあるが、この部分精製抗原を用いたELISA法を開発し、これまでWHOによって推奨されてきているEm2-ELISA法との相対評価を試みた。Em2-ELISA法は現在、遺伝子組換え蛋白質抗原(Em-II/3)を加えたEm2plus-ELISAキットとして市販されており、この市販のキットとの信頼限界についての比較解析を試みた結果、部分精製抗原を用いた新しいELISA法の方が特異性において優れていることが判明した(Ito et al.1997,Clin.Diag.Lab.Immunol.4,57-59,Ma et al.1997,Trans.Roy.Soc.Trop.Med.Hyg.in press)。Em16については抗Em16モノクロナル抗体をプローブとして多包虫原頭節cDNAライブラリーからクローニングを試みた結果、上記のEmII/3と同一成分である可能性が強く示唆されており、現在、Em-II/3遺伝子組換え抗原との相違について解析を加えている。以上の成績からEm18が多包虫症に特異性を有し、単包虫症、嚢虫症との鑑別に非常に有効であること、Em16は多包虫、単包虫両種に共通の包虫症共通成分であり、嚢虫症その他からの鑑別に役立つことが強く示唆された。 単包虫症についての血清学的鑑別診断としては、これまでのところ多包虫抗原を用いたイムノブロット法によりEm18に対する抗体応答の欠損によって判定する方法が最も信頼性が高いこと、外科的に摘出された病巣を検査材料とし、多包虫、単包虫の遺伝子鑑別診断が可能なことが判明している(Ito et al.in prep.)。 嚢虫症についての鑑別診断法についてはこれまでに報告された方法とは全く別の方法によって非常に特異性が高い成分をイムノブロット法によって検出する方法を開発している(Ito et al.in prep.)。この新しい抗原を用いることによって、アメリカ(CDC)、メキシコ、ペル-、韓国、中国において臨床的ならびに寄生虫学的に嚢虫症と確定診断された患者血清の98%が陽性と診断され、自然感染ブタ血清においても人体同様の抗体応答が認められ、多包虫症、単包虫症との交差がまったく無いことが判明している(Ito et al.in prep.)。 以上の成績から世界規模で流行が年々深刻化してきている新興感染症、エキノコックス症、嚢虫症についての血清学的鑑別診断がヒトのみならず自然界においてヒト以上に中間宿主として重要な家畜動物、野生動物においても可能であることが判明したと結論づけられる。今後の研究課題は遺伝子組換え抗原作製と流行地域での疫学研究への応用による実証である。 隠す
|