研究課題/領域番号 |
07044257
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 文彦 京都大学, 遺伝子実験施設, 助手 (50212220)
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研究分担者 |
リットマン ギャリー 南フロリダ大学, 教授
近藤 滋 京都大学, 医学研究科, 講師 (10252503)
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キーワード | 免疫グロブリン遺伝子 / 塩基配列 / 酵母人工染色体 / 物理地図 / 反復配列 |
研究概要 |
ヒト免疫グロブリンH鎖遺伝子領域は、ヒト第14番染色体の長腕部(14q32.33)に位置し、塩基配列の相同性をもとに7つのファミリーのおよそ80個のV_H断片、20個以上のD断片、6個のJ_H断片及び11個のC_H遺伝子から構成される。V_H遺伝子断片自体の構造は動物種を越え極めてよく保存されているが、領域全体の構造は遺伝子の重複・欠失あるいは転座を伴って極めてダイナミックに進化しているため異なる動物種の間で必ずしも進化的に保存されていない。従って異なる動物種の間でこの領域の構造の比較解析を行なうことで、多重遺伝子族の進化の理論的モデルの検証が可能であり、またこれを通してゲノムの進化に関する重要な知見を得る可能性がある。またV_H領域には個体間、人種間で多くの多型が存在するが、それらの多型と免疫系の疾患に対する感受性との間の遺伝的相関を明らかにすることで、自己免疫疾患および免疫不全症の予知および診断あるいは将来的には治療の手がかりとすることも可能である。 以上のような理由から、この領域の物理地図を作成し全塩基配列を決定することを最終目的に領域の単離、解析を進めてきた。酵母人工染色体(YAC)を用いてこの領域の単離を試み、約1Mbの領域の全体を単離し詳細な物理地図を作成し、この領域の全貌を明らかにすることに成功した。さらに、得られた物理地図の情報をもとに、全領域の全塩基配列の決定を試みた。 領域中には多数の繰り返し構造が存在し、得られた塩基配列の結合に多くの困難が生ずると予想されたため、従来より行われているショットガン法より、多数の合成オリゴヌクレオチドを用いたプライマー歩行法がより適切であろうと考えた。そこで領域をカバーするコスミドサブクローンより大部分の領域をプラスミドにサブクローニングし、塩基配列決定のための鋳型DNAを調製した。塩基配列決定は、ABI社の塩基配列決定装置を用いて行った。現在までに2箇所のギャップ(約10kb)を除き、J_H遺伝子群から14qテロメアまでの約1Mbの領域の塩基配列決定に成功し、以下の結果を得た。 1)V_H断片の総数 ファミリーに特異的なV_H断片をプローベに用いたサザンブロット解析では、この領域に総計81個のV_H断片が同定されている。コンピューターを用いた相同性検索を行った結果、新たに2個のV_H断片(V3-78.1P、V7-34.1P)が見つかり、またV7-77は存在しないことがわかった。以上からV_H断片の総数は82個であることが明らかになった。各V_H断片が機能をもったものか或いは偽遺伝子かを調べたところ、半数以上の42個が何らかの原因で機能を失った偽遺伝子であった。 2)V_H断片のpolarity V_H断片のJ_H断片に対する相対的転写方向はすべてJ_Hに対して順向きで、逆位は存在しないことが明らかになった。 3)反復配列の同定 領域中に分布するヒトの高頻度反復配列Alu及びL1反復配列の同定を行った。その結果、105個のAlu配列と25個のL1配列が見い出された。それぞれの反復配列の頻度はゲノム全体の平均(Alu配列70-110個、L1配列2-20個)とはそれほど大きく異なっておらず、またその分布に関しても特定の傾向は見い出されなかった。 4)D遺伝子群の構造 ヒトD遺伝子群はD_M、D_<LR>、D_<XP>、D_A、D_Nの6つのファミリーのD断片で構成され、V6-1とJH断片群の間の領域にこれら6つの断片が組になって4回重複したかたちで存在していることが推測されている。塩基配列の詳細な解析より今回合計25個のD断片を同定した。先年黒沢らによって報告されたD4からD1の領域にみられるような繰り返し構造がD2、D3領域にも観察され、この領域が重複によって形成されたことが明らかになった。しかしながら、重複のユニットごとに細かな遺伝子構造は若干異なっており、例えば、D1領域にはD_<XP>断片の重複(D_<XP1>、D_<XP1>)が見られるが、D2領域では逆にD_<XP>断片は同定されず、またD3領域にはD_<N3>の下流にもう1個のD_M断片D_<M3>が発見された。
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