研究概要 |
我々はエリスロポエチン(EPO)受容体が赤芽球系の分化シグナルを発生できるのか調べるために、EPOに応答して分化する赤芽球系細胞ELM-1にキメラ分子(細胞外EGF受容体、細胞内EPO受容体)を導入した。この細胞はEPOに応答してヘモグロビンの合成が開始し赤味を帯びる。キメラ分子を導入しない細胞ではEGFはヘモグロビン合成に影響しないのに対し、導入した細胞ではEPOのみならずEGFに応答してヘモグロビン合成を促進した。この結果はEPO受容体の細胞内ドメインに分化誘導を行う機能が存在し2量体化によって分化のシグナルが発生することを示している。次にEPO受容体の細胞内ドメインに欠失やチロシン→フェニルアラニンの変異を導入した結果、Y343あるいはY401いずれか一方があれば十分分化しうることがわかった。この2つのチロシン残基はSTAT5の活性化に重要であり、確かにSTAT5の活性化と分化は強く関連していた。次にSTAT5の標的遺伝子であるCISについてEPO受容体との相互作用について調べた。CISは約260アミノ酸よりなる蛋白質で中央にSH2ドメイン、その両側に80個のアミノ酸からなる機能が未知のドメインを有する新規の遺伝子である。CISはSH2ドメインを介してチロシンりん酸化されたIL3受容体やEPO受容体と会合することを明かにした。C末端を削ったEPO受容体との結合を調べたところ結合は細胞膜付近のチロシン(Y)343およびY401を含む領域でおこることがわかった。この領域はSTAT5の会合する領域と一致する。したがってCISは受容体のりん酸化チロシンをマスクし、STAT5の会合を阻害する効果が考えられる。CISはSTAT5によって誘導されSTAT5の活性化を阻害することから一種の負のフィードバック調節因子と考えられた。現在アメリカとの共同研究によりCIS遺伝子ノックアウトマウスを作成、解析中である。 次に酵母two-hybrid系を利用してJAK2のキナーゼドメインと直接結合しうる分化をスクリーニングした。その結果新規遺伝子JAB(JAK-binding protein)をクローニングした。JABは構造的にCIS(cytokine-inducible SH2 protein)に類似した分子であり、293T細胞を用いた実験ではJAK1,2,3およびTyk2どのJAK分子とも会合した。two-hybrid系ではCISはJAK2とは結合しなかった。またキナーゼドメインに変異を導入してキナーゼ活性をなくしたJAK2とは結合しなかったのでJABはSH2ドメインとJAK2の自己りん酸化部位を介して結合しているものと考えられた。次に293細胞においてJAK2を過剰発現させるとJAK2の自己りん酸化や基質であるSTATのりん酸化を検出できる。このときJABを共発現させるとJAK2の自己りん酸化やSTATのりん酸化が強力に抑えられることがわかった。ルシフェラーゼアッセイにおいてJABはSTAT3,STAT5の活性化を抑制した。またJABを安定に高発現させた繊維芽細胞はインターフェロンによる細胞増殖抑制効果にたいして耐性を示した。したがってJABはひろくJAK-STAT経路の負の調節因子と考えることができる。さらにデータベースの検索によってESTとして登録されているcDNAのなかにCIS,JABと構造的に類似する遺伝子が少なくとも3つ存在することが明かとなった(CIS2,3,4)。SH2ドメインは25-35%程度のアミノ酸が同一であり、他のSH2ドメインとは明かに異なったグループをつくる。現在このファミリーの機能をノックアウトマウスの作成も含めて検討中である。
|