研究概要 |
新型コレラ菌のo139ベンガルは1992年に出現し、1993年には、インド亜大陸においてはo1型コレラ菌が全く分離されなくなった。ところが1993年後半から再びo1型コレラ菌が分離され始め、1994〜1995年には、o1型コレラ菌によるコレラが新型o139によるコレラよりはるかに多くなった。1996年後半に至って、再びo139型コレラ菌によるコレラが流行の兆しを見せはじめている。インドにおけるコレラの流行の追跡は、ワクチン開発のための重要な情報をもたらし、特に分離菌の遺伝学的解析は、有効な防禦抗原の同定に必須である。以下に成果の概要を列記する。 1.o139コレラ菌の流行前と後の各々のo1コレラ菌とo139コレラ菌のRFLPをパルスフィールドゲル電気泳動を用いて解析した結果o139コレラ菌流行後のo1コレラ菌は、o139コレラ菌流行前のo1コレラ菌とは異なり、どちらかといえばo139コレラ菌と似たRFLPを示した。 2.o1抗原合成に関わっている約20KbのSacI断片と25の部分に分けてPCRによってo1特異プローブを作成し、o139コレラ菌との反応性を調べた。その結果rfaD領域とrfbP&Q,rfbR and rfbSの領域は、o1コレラ菌のみならずo139コレラ菌にも存在していた。 3.o139コレラ菌のo抗原の合成に関与していると思われる約9KbのHind III-Kpn I断片をクローニングし、そのDNA断片から9つのDNAプローブを作成し、o1コレラ菌からo155コレラ菌に対する反応性を調べた。その結果、全体としてo139コレラ菌に特異的であったが、その中の約2,5Kbは、o22コレラ菌とも反応した。 4.この9KbのHind III-Kpn I断片の一部の塩基配列を解析した結果、Salmonella typhimuriumやPseudomonas aeruginosaのLPS合成に関与しているといわれているmannose-6-phosphate isomeraseと相同性を示すORF1つが見つかった。残りの領域は現在解析中である。 5.o139特異抗原の合成に関与していると思われる全遺伝子領域を得るために、コスミドベクターを用いて約30-42Kbの断片のクローニングを試みた。その結果rfaD領域、rfbQRS領域とHind III-Kpn I断片の左端のプローブとは反応するが、その右端とは反応しないクローンを1つ、rfaD領域のプローブとは反応しないが、rfbQRS領域とHind III-Kpn I断片の左端と右端のプローブと反応するクローン1つを得た。 6.両クローンのインサートDNAのサイズは、約40Kbであった。両クローンのインサートDNAを種々の制限酵素で切断し、pBluescriptSKII(+)にサブクローニングし、現在その塩基配列を解析中である。
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