研究課題/領域番号 |
07044319
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
猪俣 孟 九州大学, 医学部, 教授 (30038674)
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研究分担者 |
NAUMANN Gott エルランゲンニュールンベルグ大学, 医学部, 教授
久保田 敏昭 九州大学, 医学部付属病院, 講師 (30205140)
NAUMANN Gottfried o.h Erlangen-Nurnberg University・Professor
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研究期間 (年度) |
1995
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キーワード | 落屑症候群 / 落屑緑内障 / 落屑物質 / 加齢変化 / 虹彩 / HLA / プロテオグリカン / NHK-1 epitope |
研究概要 |
落屑症候群は50歳以上の中高齢者の水晶体表面にふけ様の沈着物が生じ、緑内障や水晶体偏位などを起こす。高齢者の失明原因として重要な疾患である。 落屑症候群は、早くから人口の高齢化が進んだ北欧に特有な疾患として知られていたが、近年わが国でも高頻度にみられるようになってきた。落屑症候群の病因解明には、その発症や臨床症状に人種差があるのか否か、人種差を加味した国際的な共同研究が不可欠である。そこで、ドイツのエルランゲン・ニュルンベルグ大学のナウマン教授と九州大学とで落屑緑内障に関する共同研究を行った。 久保田敏昭がエルランゲン・ニュルンベルグ大学を訪問し、日本人とドイツ人の落屑症候群および落屑緑内障の臨床および病理学的特徴について比較検討し、下記の点を明らかにした。 1.落屑症候群の病因に関する臨床的研究 日本人とドイツ人の落屑症候群のある患者を臨床的に観察した。前房内の色素遊出や虹彩の色素虹彩脱出などの所見は、日本人とドイツ人で大きな違いは認められなかった。落屑症候群で緑内障を起こしている症例と緑内障を起こしていない症例とで臨床症状の有意の差はみられなかった。 2.落屑緑内障の病因に関する病理学的研究 (1)虹彩色素上皮細胞の加齢変化に関する病理学的検討 虹彩色素上皮細胞の基底膜は加齢にしたがって肥厚し、2層あるいは3層の基底板が形成される。重層した基底板にはマイクロフィプリル様の線維が出現し、あたかも未熟な形態の落屑物質のようであった。このことから、虹彩色素上皮細胞の基底膜の加齢変化は前眼部における落屑物質沈着の一因となりうることが明らかになった。 (2)落屑物質の組織化学的検討 落屑物質とその周囲組織のプロテオグリカンを染色し、その種類と分布を明らかにした。落屑物質はコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸のプロテオグリカンを含んでいた。落屑物質の形成には、マイクロフイブリルにこれらのプロテオグリカンが沈着することが関係している可能性がある。 (3)落屑物質の免疫組織化学的検討 九州大学とエルランゲン大学で得られた落屑症候群を持つ摘出眼球を免疫組織学的手法を用いて染色し、組織切片を電子顕微鏡で観察した。NHK-1 epitopeに対するモノクローナル抗体を用いて染色した標本では、落屑物質に陽性に染まったが、その染色性に落屑物質の存在部位で差が認められた。房水に暴露する部位に存在する落屑物質が強陽性に染まり、局所的に産生されている部位の落屑物質にはあまり染まらなかった。このことから、NHK-1 epitopeは落屑物質の成熟と関係することを推論した。 3.落屑症候群患者の症患感受性に関する分子遺伝学的研究 落屑症候群患者および健常人の組織適合抗原(HLA)を調べた。DR4は健常人317名中132名(42%)で、落屑症候群患者では34名中6名(18%)であった。つまり、落屑症候群患者ではDR4をもっている人が少なかった。これは相対危険度0.3、P値0.0065で、5%以下の危険率で有意であった。同様に、DQ4は健常人317名中97名(31%)で、落屑症候群では34名中4名(12%)で、落屑症候群患者ではDQ4をもっている人が少なかった。これは相対危険度0.3、P値0.035で、5%以下の危険率で有意であった。さらに、Yatcの補正を行った後でも、落屑症候群患者ではDR4およびDQ4をもっている人が5%以下の危険率で有意に低かった。また、DRB1^*0405およびDQA1^*03も落屑症候群患者では健常人に比較して低い傾向があった。このことから、落屑症候群の発症には症患感受性があることが示唆された。
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