研究課題/領域番号 |
07045052
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 大学協力 |
研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
宮西 照夫 和歌山大学, 保健管理センター, 助教授 (60094679)
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研究分担者 |
V.JATORO Elb サンカルロス大学, 民俗学研究所, 主任
SOMMERCAMP Y サンカルロス大学, 細菌学研究所, 研究員
TORRES Migue サンカルロス大学, 細菌学研究所, 所長
VILLATORO Elba San Carlos University, Guatemala
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研究期間 (年度) |
1995 – 1996
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キーワード | グアテマラ共和国 / 近代化 / 幻覚キノコ / 児童 / 乱用 / 慢性中毒 / 脳波 / 心理テスト |
研究概要 |
古代メソアメリカで、様々な幻覚発動性植物が宗教及び医療目的で広く使用されてきた。なかでも、幻覚キノコは聖なるキノコと呼ばれ愛用され、その様子は16世紀にスペインの王室医F.エルナンデスにより記録されている。1616年にスペイン人は、これらの植物を理性をなくし、悪魔と交流させるものとして厳しく禁じたため、以来これらの伝統的宗教及び治療儀式は秘密裏に伝えられてきた。この幻覚キノコを用いた宗教儀式は、1953年にようやくG.Wassonよって公にされると共に多くの研究がなされ、1982年には、研究代表者の宮西も幻覚キノコを用いたマリア・サビナの儀式を体験すると共に、分裂病やスストの治療儀礼を観察記録してきた。しかし、近年近代化により幻覚キノコの儀礼的使用は急速に減少し、現在では一部の地域に限られている。その一方で幻覚キノコの乱用は増加しつつあると言われるが、その実態はまだ明らかでない。 今回我々は平成7年度文部省科学研究費補助金(国際学術研究-大学間協力研究)の交付を受け、グアテマラ・サンカルロス大学と共同で、グアテマラ市郊外の都市化が進みつつある-集落サンタ・エレナ村(人口約3000名)において、子供の幻覚キノコの乱用実態調査、並びに常用者の脳波検査と心理テストを実施した。 A。幻覚キノコ乱用に関する実態調査。 1.調査方法;路上で遊ぶ子供にインタビューした。 2.調査結果 1)予備調査(1994年):19名(男子12名、女子7名)の子供にインタビューし、10才前後の少年の6、7割以上が幻覚キノコの乱用経験者であることが確認した。 2)本調査:9才から15才の子供56名(男子51名、女子5名)がインタビューに応じ、75%に幻覚キノコの乱用歴が認められた。乱用動機として、貧困や将来の希望のなさへの気晴らし、つまり現実逃避や集団への帰属性の希求が考えられた。また、摂取量は一回10-30g、年長者より教え継がれ、頻度は月に2、3回、そして症状は一過性の急性症状が主で、中毒性精神病像や身体依存を呈するものはなかった。しかし、青年層では、アルコールやシンナーなどと併用される傾向が強くなり、事故が多くなっていた。摂取キノコはハラタケ科Psilocybe属とPanaeolus属で、成分はシロシン(Psilocin)、シロシビン(Psilocybin)である。 B.幻覚キノコ常用者の脳波、神経学的検査、及び心理テスト。 1.対象、及び調査方法 1)幻覚キノコ常用者6名(成人3名、小児3名)と非常用者2名の脳波及び神経学的検査を実施した。検査には英国オックスフォード社の脳波レコーダーZM-908Aを用い、国際10-20法のF3、F4、01、02から磁気テープに録音した。脳波記録は安静閉眼時、開閉眼、過呼吸、そして運動誘発を実施した。 2)幻覚キノコ常用者13名にロールシャッハ・テスト、24名にH.T.Pテスト、そして非常用者20名にH.T.Pテストを実施した。 2.結果 1)常用者群全員が頭痛、嘔気を訴えたが、神経学的異常所見は認められなかった。また26才の男性1名に問題行為が認められた。 2)安静閉眼覚醒時における脳波所見は、後頭部優位に律動性を持ったアルファ波を認め、全例視察上ほぼ正常所見を認めた。 3)常用者の開眼時脳波所見においてアルファ波の再現時間の遅れがみられた。 幻覚剤の急性中毒の研究は多いが、慢性中毒症状の有無やその脳波を含めた大脳生理学的研究は極めて少ない。今回の我々の研究は、幻覚キノコ単独、5-20年の長期にわたる常用者を対象としたもので、その脳波記録自体貴重であると思われる。さらに、視察上ほぼ正常所見を示したにもかかわらず、C.S.A.分析結果アルファ波の再現時間の遅れが認められたことは、幻覚剤の慢性毒性研究の一指標となると考えられ、今後引き続き調査を進めたいと考えている。 これらの結果は、1996年に第3回多文化間精神医学会(神戸)、第16回社会精神医学会(沖縄)などで、またX World Congress of Psychiatry (Spain),II Congresso Internacional de Psiquiatria Biologica (Guatemala)の国際学会で報告するとともに、共同研究者が来日し、調査結果並びに乱用防止対策の検討を行った。
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