研究概要 |
リンパ細胞にみられるV(D)J組み換えは、抗原受容体遺伝子の多様化と活性化に重要な役割を担っている。このDNA組み換えに関しては、RAG遺伝子(recombination activating genes)の関与が議論されて来たが、その組み換えに於ける具体的役割については不明な点が多かった。しかし近年、ようやくin vitroの系が動く様になり、RAGタンパク質と組み換えシグナル配列(recombination signal sequences:RSS)との相互作用も解析可能になってきた。 当グループでは最近、長年困難とされていたRSS-RAG複合体をフットプリント法によって検出する事に成功した(Mol.Cell.Biol.,18,655-663,1998)。その結果、RAG-RSSの結合は、基本的にはRAG1タンパク質のHinドメイン(102アミノ酸残基)と、RSS中の9merとの相互作用によって支えられている事が判明した。更に、この相互作用の様式は、サルモネラに見られるHin/hixの組み換え系に極めて類似しており、V(D)J組み換えの9merのフットプリントは、サルモネラのhin DNAのそれに酷似していた。これらの結果は、V(D)J組み換えが、抗原受容体遺伝子にたまたま挿入されたトランスポゾンの切り出し反応を、進化の過程で利用したものである、との仮説を支持するものとして興味深い。 当グループでは、V(D)J組み換えの素過程の研究に加え、この組み換えを組織特異的に制御する抑制性シスエレメントの研究を行っている(Cell,83,1113-1123,1995)。このDNAエレメントは、抗体κ鎖遺伝子の3'エンハンサー内にあるPU.1結合配列、GAGGAAであることが判明したが、最近の当グループの研究により、同じ配列が抗体遺伝子再構成の分化段階に特異的な制御にも関与している事が明らかになった(J.Immunol.159,4145-4149,1997)。現在、このシスエレメントに結合するV(D)J組み換えのリプレッサー分子と、それをコードするcDNAの同定を急いでいる。
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