X線観測による銀河団の構造と進化の研究

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07102007
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 山下 広順 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (80022622)
• 研究分担者: 難波 義治 中部大学, 工学部, 教授 (40029129) ; 田原 譲 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (10135296) ; 國枝 秀世 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (00126856)
• キーワード: 銀河団 / X線撮像スペクトル / プラズマ温度 / X線望遠鏡 / 多層膜スーパーミラー / 超精密非球面加工 / スパッタリング / 多層膜回折格子

研究概要

1.「あすか」衛星の観測による銀河団の研究
銀河団の構造に伴うスペクトルの変化を明らかにするために、X線の表面輝度が1/2となる半径を境界として中心部と周辺部に分割した。その結果、中心集中度の高い銀河団では、中心部でプラズマ温度が低く、重元素組成比が大きくなるが、周辺部で重元素の組成比が大きくなる銀河団が見つかってきた。これは、銀河団が併合合体の途上にあり、熱力学的平衡状態に達していないか、あるいは鉄輝線の共鳴散乱効果によるものと解釈できる。後者の考え方で鉄輝線の精密解析をしたところ、ニッケルの組成比が宇宙組成より大きくなっている可能性がでてきた。これは高温ガスの起源と銀河団の進化を解明する上で重要な観測結果である。60個の銀河団を統一的な手法で解析することによりこの問題の解明を図っている。
2.広帯域・高効率・高分解能X線望遠鏡の開発
今年度の最大の成果は、Pt/C多層膜スーパーミラーを薄板レプリカ鏡に成膜し、硬X線望遠鏡として組み上げ、その結像性能を世界に先駆けて明らかにしたことである。スーパーミラーは、周期長(A)と積層数(組)が表面から基板面に向かって、(50-46,5)、(40,8)、(36、13)の多層膜で構成されている。入射角0.3°で、25〜35keVにおいて30%の反射率が得られた。結像性能は4.5keVのX線とほぼ同等であった。更に、衛星搭載望遠鏡用のスーパーミラーレプリカ鏡を試作した。20keV以下は全反射を利用し、20〜40keVは多層膜によるブラッグ反射で30%の反射率を得た。気球搭載硬X線望遠鏡を完成させるには、1000枚のスーパーミラーレプリカ鏡を製作する必要があるが、その試みとして、9日間で20枚成膜することができた。大量生産方式を確立することが今後の課題である。新しい分光素子として、ラミナー型多層膜回折格子の製作と性能評価を行なった。Cu-Kα(8keV)に対して20%を越える1次元の反射率と100以上の分解能を得た。

研究成果

• [文献書誌] 山下広順,国枝秀世,田原譲: "スーパーミラーの最前線" レーザー研究. 25・5. 362-366 (1997)
• [文献書誌] K.Tamura, K.Yamashita, H.Kunieda, Y.Tawara et al.: "Development of balloon-borne hard X-ray telescopes using multilayer Supermirror" Proc.SPIE. 3113. 285-292 (1997)
• [文献書誌] Y.Ikebe, K.Yamashita et al.: "Temperature Structure of the X-ray emitting gas in Hydra-A Cluster of Galaxies" Astrophys.J.481. 660-672 (1997)
• [文献書誌] J.M.Bennett, Y.Namba et al.: "Topographic measurements of precision-ground optical glasses" Appl.Opt.36. 2211-2216 (1997)
• [文献書誌] 山下広順,国枝秀世,田原譲: "X線スーパーミラー" 応用物理学会誌. 66・12. 1359-1360 (1997)
• [文献書誌] A.Furuzawa, Y.Tawara, H.Kunieda, K.Yamashita et al.: "ASCA Observations of the Distant Cluster CLOO16+16 and Implication for H_θ" Astrophys.J.(in press). (1998)
• [文献書誌] K.Yamashita: "High Energy Astronomy and Astrophysics,Multilayer X-Ray Optics" Universities Press,P.C.Agrawal and P.R.Vishwanath 編, 430(351-359) (1998)