研究概要 |
研究の内容を3つに分けて説明する。 1.CERNにおける核子のスピン構造の研究 CERNにおいては、平成7年度は偏極重陽子を標的とした、ミューオンによる深部非弾性散乱の実験を行った。実験条件は、ミューオンのエネルギー190GeV,ミューオンビーム偏極度80%,標的重陽子偏極度50%で4月22日から10月6日まで測定した。収集データ数のうち最終解析に残ったものはg^d_1(x)について535万事象で、平成4,6の2年度合計の863万事象と比べて非常に効率のよい測定であった。また、世界ではじめてg^d_2(x)を測定し、これがg^d_1(x)の値の決定に及ぼす系統誤差を抑えるうえでも大きな意味を持った。データは現在解析中である。 2.Drell-Hearn,Gerasimov和則の検証 この研究を遂行するにあたり、2つの課題を追求している。一つはドイツのMainzで現在準備している国際共同研究に参加すること、二つに国内のSpring-8放射光施設の8GeV電子による実験の実現である。Mainzでの共同研究には、参加申請を行い、正式にグループメンバーとして承認され、特に、偏極標的の建設と運転で責任を持つことが決った。実験は早ければ平成8年秋から始る。Spring-8ではレーザー光を電子に照射し、後方に散乱させる方法により高エネルギー偏極γ線ビームを発生させる。ビームラインの建設が具体的に進められてきており、私たちグループはレーザー光を準備する役割を分担してベンチテストに入っている。並行して実験プロポーザルを準備している。 3.偏極標的の開発 偏極標的は私たちの最も重要な実験手段であり、不断に新試料の開発、正確な偏極度の検出、高偏極度の実現のために努力を重ねている。本年度は、この目的にそって、試料開発用に、ESR装置、NMR検出装置、偏極励起用マイクロ波系、データ解析用コンピューター等を購入し、装置の充実を図った。これにより、新物質として将来性のあるポリエチレンを標的とする開発を行い、陽子偏極度50%以上を得た。
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