チンパンジー10個体からなる犬山コミュニティーに、新たにマリという名の個体を導入し合計11個体になった。受胎調節にためにコミュニティーから隔離しているレオを除いて、10個体が常時一緒にいる。このコミュニティーから一人一人を呼び出して、個別の実験ブ-スで、さまざまな認知機能の研究をおこなった。主要トピックとしては、図形文字および漢字の習得とそれによる命名、記憶の保持過程、視覚探索課題を利用した初期知覚の研究、視知覚における言った一体性の知覚と遮へいの効果、同時レバ-押し課題によるコミュニケーションの研究、視覚・聴覚の異種感覚間マッチング、弁別課題間の選択行動、コンピュータでモデルを示した線描、などである。こうした実験に加えて、対面場面でヒトが検査者として介入して認知機能を図る試みなどがなされた。主要なトピックとしては、動作の模倣、粘土造形などである。さらに、第3の実験パラダイムとして、日常暮らしている運動場に儲けた屋外用実験ブ-スを利用した社会的場面での研究をおこなった。主要なトピックとしては、道具を利用したジュース飲み行動の生起と伝播過程にかんする研究、2つの採食場所をめぐる社会的かけひきの行動学的研究などである。さらに新しい試みとして、犬山コミュニティーのチンパンジーに「お金」を導入した。弁別課題を解いた報酬として、従来のようなりんご片などの食物でなくお金を与える。そのお金を自動販売機にもっていくとりんごと交換可能になる、というシステムである。10個体すべてがこうした「お金」を交換可能な道具として使うようになり、犬山コミュニティーに固有な文化的行動を作り上げることができた。アイという名のチンパンジーに人工受精で子どもを設ける試みが継続中であり、子どもの誕生を待って、文化の世代間伝播の研究に着手する予定である。
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