京都大学霊長類研究所にいる一群11個体のチンパンジーを対象に、その認知機能の実験的な分析をおこなった。場合は大きく3つに分かれる。第1は、単一個体を対象としたブ-ス実験である。数の概念、色と文字の対応、なぞりがき、入れ分け、迷路課題などの弁別課題をおこなう一方、ヴィジュアル・サーチ(視覚探索)課題によって、視覚情報処理の基礎過程をヒトと比較した。漢字の認識、意思決定過程、ト-クンの使用、視覚-聴覚の異種感覚間のマッチング、遅延つき鏡映像の認知などのトピックについて分析をおこなった。第2は、2個体を対象としたプレイルーム実験である。ヒト対チンパンジーの2個体場面では、ヒトの動作模倣の実験をおこなった。模倣はきわめて成立しにくいが、まったく成立しないわけでもない。成立の用件を詳細に分析している。チンプ対チンプの2個体場面では、共同作業の成立過程、道具使用の伝播過程の実験的研究をおこなった。第3は、複数個体が同時にいる社会的な場面として屋外運動場を舞台とした実験である。他者の心ないし知識を理解する「心の理論」と、メンツェルが創始した小集団実験をあわせて、新しい研究パラダイムとしての、「宝探し/目撃者の目撃者ゲーム」をおこなった。社会的場面での知性の分析を進めている。
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