継続研究として、チンパンジーの認知機能の実験的分析をおこなった。本年度のトピックは、数の認識、数系列の記憶にみる短期記憶の容量、視覚における光運動情報の処理(いわゆるバイオロジカル・モーションの理解)、チンパンジーにおける自然概念の成立、トークン(代用貨幣)の理解と使用などである。また社会的知性の研究もおこなった。チンパンジーにおける対象操作行動の模倣、道具使用の習得と個体間伝播・観察学習のタイミングの研究などである。1群11個体のチンパンジー集団を対象に上記の研究をおこなうとともに、アフリカ・ギニアの野生チンパンジーの道具使用行動を野外実験の手法で解析した。こうして、チンパンジーが習得する技術や知識の詳細を明確にするとともに、個体間伝播の様相と機構について、観察と実験の双方の手法を使って明らかにした。こうした伝播において、「長期にわたる注意深い観察行動」「適切なタイミングにおけるモデル個体の観察」「そうした観察を許すモデルの側の寛容さ」「<真似たい><同じことをしたい>という模倣それ自体がもつ強い動機づけ」といった事柄の重要性が明らかになった。また世代間伝播の核心となるさらなる研究のために、人工授精等をおこない新たにチンパンジー3個体の妊娠に成功した。チンパンジーの比較研究のために、オランウータンの研究をボルネオでおこなった。テナガザルについては昨年度に引き続いて2例目の個体を得て研究を継続した。ニホンザルについても比較研究を実施した。こうした研究の成果については、「ネイチャー」その他の学術誌に掲載され公表されている。
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