生物多様性の発生学的メカニズム:脊索動物の起源と進化に関する分子発生生物学的研究

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07102012
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 佐藤 矩行 京都大学, 大学院・理学研究科, 教授 (30025481)
• キーワード: 生物多様性 / 発生学的メカニズム / 脊索動物の起源 / 脊索 / Brachyury遺伝子 / ウニ / ホヤ / ギボシムシ

研究概要

脊索は脊索動物を特徴づける最も重要な形質の一つである。本研究の目的は、脊索形成に関わる遺伝子Brachyury(T)が動物の進化においてどのようにオーガナイズされてきたのかを解析することによって、脊索動物の起源と進化を分子発生生物学的に解明することである。本年度は主として次のようなことがわかった。
1. T遺伝子は脊索をもたない新口動物である棘皮動物のウニや半索動物のギボシムシでも保存されていることはすでに示したが、本年度はまず脊索をもたないこれらの新口動物のT遺伝子が脊索をつくるという機能が保存されているかどうかを調べた。その結果、これらの新口動物のT遺伝子をホヤで異所的に強制発現させると、脊索が形成されることがわかった。
2. したがって、脊索の起源を探るためには、脊索動物のT遺伝子が働いた時には脊索ができるのに対して、脊索を持たないウニのT遺伝子が働いた時には2次関充織ができる、という問題にアプローチする必要がある。そこでまずホヤT遺伝子が働いた時に発現する遺伝子群(ターゲット遺伝子)の解析を開始した。ホヤのNHF-3遺伝子の上流域をうまく利用した系を駆使してこれまでに約600の候補のcDNAクローンを得た。これらのクローンを解析した結果、約40クローンの遺伝子が脊索で発現することがわかった。現在、さらに詳細な解析を続けている。
3. また、ウニで同様の試みを開始したが、技術的な問題があって、まだ結果は得られていない。

研究成果

• [文献書誌] Wada,H.: "Tripartite organization of the ancestral chordate brain and the antiquity of placodes:insights from ascidian Pax-2/5/8.Hox and Otx genes" Development. 125. 1113-1122 (1998)
• [文献書誌] Tagawa,K.: "Novel pattern of Brachyury gene expression in hemichordate embryos" Mechanisms of Development. 75. 139-143 (1998)
• [文献書誌] Yasuo,H.: "Conservation of the developmental role of Brachyury in notochord formation in a urochordate,the ascidian Halocynthia roretzi" Developmental Biology. 200. 158-170 (1998)
• [文献書誌] Ogasawara,M.: "Isolation and characterization of endostyle-specific genes in the ascidian Ciona intestinalis" Biological Bulletin. 195. 60-69 (1998)
• [文献書誌] Yoshida,S.: "Regulation of the trunk-tail patterning in the ascidian embryo: A possible inter-action of cascades between lithium/βーcatenin and localized maternal factor pem" Developmental Biology. 202. 264-279 (1998)
• [文献書誌] Takada,N.: "Characterization of an ascidian maternal T-box gene,As-mT" International Journal of Developmental Biology. 42. 1093-1100 (1998)
• [文献書誌] Satoh,N.(Ed.by Moody,S.A.): "Cell Lineage and Fate Determination" Academic Press, 644 (1999)