本研究は、平坦でない地表を不等間隔に走査した地下探査レーダーデータを処理し埋設物体像を再構成する信号処理法の開発と実証を目的とする。このため実際に平坦でない地面を実験場に作り、その下に埋設した標的を観測してそのデータを上の方法で解析することにより、この手法の精度や適用範囲を実験的に検証し、実用に耐える性能と処理速度を持つアルゴリズムを開発することを目指す。 本年度は、計算機シミュレーションによるアルゴリズムの性能評価と改良を進めると共に、兵庫県加古川市の行者塚古墳発掘現場に小型鉄筋探査レーダーを持ち込んで測定を行った。その結果、鉄製容器や鉄剣を事前に検出し、その概略の寸法を推定することに成功した。これによって保存処置の必要な金属遺物に対しても出土前に十分な準備が可能となった。また、金属遺物に限らず粘土槨と周囲の土壌との地質の差による反射波をとらえることにも成功し、粘土槨の構造と位置を正確に決定することができた。 このように、従来用いられてきた大形の地下探査レーダーによる発掘前の調査とは異なり、発掘過程に小型レーダーを用いた探査を併用することにより、発掘を効率化することが可能であることが明らかとなった。これは遺跡探査技術の新しい利用法であり、発掘中の石棺内の探査や、水田址の探査など、様々な遺跡を対象とする考古学分野の研究者から共同研究の依頼を受けている。今後は、これまでに開発した高度な信号処理アルゴリズムをこれら現場のデータに容易に適用できるよう、さらにアルゴリズムを改良することが課題である。
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