極東ロシアに在住するロシア人研究者の協力の下に、本年度の研究を実施した。外国人労働問題は、この期にかけての一時期、とりわけ政治的緊張を孕んでおり、当初企画したような、率直な問題提起のよる住民アンケートの実施は困難であり、実現しなかった。また、この問題を担当する行政部局が、雇用センターから移民管理局に変更になって以来、行政の手にある情報のわれわれへの供与は、一段と厳しく抑制されるようになった。 そうした悪条件下ではあったが、実地視察と研究者交流を含めた研究によって、いくつかの当面の発見と資料の取得、および今後の研究への手掛かりが得られた。事実発見の要点は、以下のごとくである。 1.査証制度の厳格化によって、中ロ間国境貿易が低下したことが、問題視されたが、かつぎ屋のような小商人活動は規制されても、より大きい組織による財貨の貿易が、すぐにこれを取り返した。 2.日本と異なり、ロシアにおいては、外国人の雇用は、政策意志としても明瞭に「3K」産業に向けられているのだが、中国人の労働は、これは単純労働で不熟練労働である、と触れ込みつつ、実は熟練労働の分野に徐々に拡大しつつある。 3.研究者によるこの問題の扱い方は、モスクワ周辺では、時折、稚拙な「黄禍論」に近付くのに対して、現地、極東ロシアの研究者たちは、問題の冷静な取り扱いのために、心を砕いている。
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