本年度は、アルゴン中におけるヨウ化シアンの光化学反応の温度依存性に関する理論的検討を行った。分子動力学計算に必要なICN-Ar、Ar-Arの相互作用ポテンシャルおよびICNのポテンシャル関数は昨年度のプロジェクトにおいて作成したものを用いた。 分子動力学計算は次のような方法を取った。周期的境界条件を課して温度一定(液体;100K、固体:40K)の分子動力学法により基底状態のICNと106個のArよりなる系(密度:液体;1.4g/cm^3、固体;1.65g/cm^3)を平衡化した。次にICNを電子励起状態に上げ、4psecまでAr溶液または固体中におけるICNの変化を追跡した。非断熱遷移の取り扱いはMiller-Meyerの方法に寄った。 液体Ar中では電子励起されたICNのトラジェクトリーはIまたはI^*とCNに解離するものと、ICNへの再結合するものとINCへ光異性化するものの3種類に分類され、その比は38:24:38となった。解離トラジェクトリーの比は38%と無視できない割合であるが、固体Ar中ではICNの解離トラジェクトリーの割合は、7%とかなり減少した。これは液体Arよりも固体Arの方がより密な構造になっているため、ICNの解離をより効果的に妨げることができるためである。また、液体Ar中でのCN断片の回転エネルギーの揺らぎは4psecぐらい経った後にもかなり大きいのに対し、固体Ar中ではその揺らぎは1psec以内に極めて小さくなる。これは液体Ar中のICNは^3II_<0+>と^1II_1両間で非断熱遷移の起きる確率の大きな領域を何度も通過し、その度に大きな回転エネルギーを得るのみ対し、固体Ar中ではこのような領域を通過する機会はせいぜい2〜3回程度であるためである。これもまた、ICNまわりのArの固体、液体状態による構造および運動の激しさの違いによって説明される。
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