研究課題
本研究では5位置換シクロペンタジエンのπ面選択性のジエノフィル依存性の解明を通して、反応性による選択性の制御についての理論の構築を試みた。フロンティア軌道間(被告軌道と空軌道)の相互作用による安定化エネルギー(SE)は軌道間の重なり積分(s)の二乗に比例し、エネルギー差(△e)に反比例する(SE∝S^2/△e)。反応の中心が非対称なπ面で反応に関与する軌道がπ面に対して非対称化されている場合、試薬の接近方向によって重なり積分sに差を生ずる。安定化エネルギーをそれぞれ重なり積分の大きい場合SE(L)、小さい場合SE(s)とすると、エネルギー差△eが小さくなると、選択性を決定する安定化エネルギー差(△E=SE(L)-SE(s)がより大きくなる。このことは反応性が上がれば選択性が向上することを意味している。以上の理論は5位ヘテロ原子置換シクロペンタジエンの反応性と選択性から実証できた。すなわち置換基のanti側で重なりが大きいフロンティア軌道(FMO)を持つ5-フェニルチオシクロペンタジエンではジエノフィルの反応性が高くなるほどanti面選択性の増加が認められた。なお逆にsyn側で重なりが大きいFMOを持つペンタクロロジエンではジエノフィルの反応性が高くなるにつれてsyn付加が増加することが報告されており、上述の予測と完全に一致した。本研究により実証された「反応性が上がれば選択性が向上する」という反応性高選択化説は、広範囲な応用が期待できる。さらに、本理論の応用によりフロンティア軌道(FMO)の非対称な広がりの実験的実証が可能となった。
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