多次元の化学反応を1次元の反応経路に射影して、その枠組の中で化学反応を記述しようとする試みは、IRCを用いた反応経路法を始めとして現在まで数多く行なわれているが、前述のプロトン移動反応のように(重原子)-(軽原子)-(重原子)が関与した化学反応では、妥当な反応経路を定義する事自体が大変に難しい問題となる。この問題を解決する一つの方向には、射影する空間の自由度を広げて1次元の反応経路から多次元の反応曲面に拡張する事が考えられる。事実このような方向は、トンネリングスプリッテイング等の実験値を再現すると言う意味ではかなりの成功を治めているが、反応曲面を定義する明確な規範が確立されていない事等、方法論としては不充分なものであった。 そこで本研究では昨年まで、Gradient Extremal Path(GEP)の定義を多次元版に拡張し内部座標等を使わず反応曲面を一般的に定義する手法を提案し、このような方法を洗練し実用レベルにするために、幾つかの改良を加えて来た。今年度は、これをマロンアルデヒドの分子内プロトン移動反応の記述に応用し、この方法の最終的な検討を行った。なおこの計算には、方法論としての妥当性だけではなく、計算時間等の実用性についての検討も行うために、電子相関を考慮したab initioレベルでの計算スキームを採用した。計算の結果、(1)この方法が従来の内部座標等を用いた計算法に比べて優位の計算精度が得られる事、(2)計算時間等についてもほぼ問題がなく充分実用になる事が解った。
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