本年度の当初の計画では、各古典群に対応する面代数を構成してその作用素環と低次元トポロジーへの応用を考えることになっていたが、実際には、SU(N)に対応する場合に限って理解の深化を図ることになった。そのかわり、低次元トポロジーとの関係については当初の期待を上回る成果を得ることができた。具体的には次のような進展があった。 (1) SU(2)に対応する面代数の表現の全体が、Turaevの言うモジュラー圏になっていることを証明した。また、この代数の表現をある種の次数付代数の上に実現することにより、対応するヤングバクスター方程式の解の族の具体的な記述を与えた。そうして両者を組み合わせることにより、3次元多様体の量子SU(2)不変量のリンク図式上の状態和表示を得た。 (2) より一般に、SU(N)に対応する面代数に対して、対合射、普遍R行列の存在、コンパクト性等を示した。これによりこの面代数の表現達の圏論的性質が、明確にされた。さらにある種の非退化性が証明できれば、SU(N)型の位相的場の量子論のユニタリ性が示せたことになるが、これについては、今後の課題となった。 また、コンパクト性の証明は、この面代数の各表現から部分因子環が構成されることを意味するが、これとH.Wenzlの部分因子環との関係を明確化することもまだできていない。また、面代数の余準三角性と、部分因子環のブレイド構造との関係も興味ある課題と思われる。 今後のその他の課題として、面代数の表現の圏と量子展開環のそれとの関係の究明があげられる。これは、(1)で述べた、不変量が、すでに知られているものに一致していることを示すのに必要である。
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