本研究の目的は以下の2である。(1)C_<60>結晶の可視部の光吸収スペクトルには、単独のC_<60>孤立分子の光吸収スペクトルには見られない吸収帯が2.8eV付近にあり、この吸収帯の物理的起源が、光誘起重合現象と相まって、現在、国際的に、注目を集めているので、この点を、理論的に解明する。(2)TDAEが注入された_<60>結晶は強磁性体になる事が実験的に明らかになっているが、TDAEから注入された電子はC_<60>分子のT_<1u>三重縮退した軌道に入る事になるので、T_<1u>三重縮退軌道が強磁性になる条件を理論的に解明する。 (1)に関して、坪・那須は、FCC構造のC_<60>結晶に、拡張ハバ-ド・模型を用い、基底状態は平均場で、励起状態には一次の電子・正孔相関を取り入れた計算を実行し、結晶と孤立分子双方にかんして実験との良い一致をえる事ができた。この結果によれば、結晶にのみ見られる2.8eV付近の吸収帯は分子間電荷移動励起子である。この吸収帯を選択的に励起すると、光誘起重合が効率良く起きる事も実験的に報告されており、本理論は、これとも整合する。(2)に関して、アリ・那須は、半分だけ占有されたT_<1u>三重縮退電子帯に縮退ハバ-ド・模型を用い、基底状態を平均場で計算し、縮退軌道間に、一電子的混成があれば、無縮退ハバ-ド・模型の場合とは大きく異なり、容易に、強磁性が出現することを理論的に立証した。
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