前年度と同じように、まず金属を含まない原料グラファイト棒を直流アーク放電で蒸発したときのカーボンナノチューブの生成条件を詳しく調べた。特に陰極堆積物の最表面におけるナノチューブの成長の様子と生成直後の雰囲気中での再成長の様子に着目して、SEM観察を主として調べた。その結果、蒸発を行うときの雰囲気ガスの純度がスリ-ナイン以下と低いときには、一度できたナノチューブの表面一面に非晶質のカーボンナノ粒子が付着して、あたかもナノチューブが太ったようになることが解った。これは残留ガスの中にH_2またはH_2O分子があるとそれが最初にナノチューブに付着し、そこへナノ粒子が付着しやすくなるのではないかと予想される。もちろん、これは推測の域を出ないものであるから、これからそれを証明していかなければいけない。これらの結果は、Jpn.J.Appl.Phys.およびFullerene Sci.&Tech.に投稿中である。 原料のグラファイト棒に金属を混入させた場合のカーボンナノチューブの生成に及ぼす効果については、前年に引き続いて、Scの他にYやLaを混入させたときにもナノチューブの成長の著しい促進効果が見られることを明らかにした。その結果は、Fullerene Sci.&Tech.に投稿中である。また、最近カーボンナノチューブの成長機構とフラーレンのそれとでは著しく異なるのではないかと考えられるいくつかの実験結果を得るに至っている。すなわち、フラーレンの場合にはその成長のもとになる分子種がC_2であるのに対し、ナノチューブの場合にはそれがC^+ではないかと思われる。これからそれを実験的に証明していきたいと考えている。
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