研究概要 |
最近、遷移金属触媒反応は飛躍的な進歩を遂げ、中でも、その立体化学的特性を利用した遷移金属触媒による夫斉反応は特に興味をもたれている。これらの遷移金属触媒反応の中で、π-アリルパラジウム錯体を経由する反応は特に興味を持たれ、反応の立体化学が解明され、その不斉合成への応用などが試みられている。しかしながら、そのアリルパラジウム系に直接ヘテロ原子が導入された例は全くない。そこで、我々は、π-アリルパラジウム系にアリル基のα位ないしはβ位に直接キラルスルフィニル基を導入した系の反応性、不斉誘起に興味を持ち、一連の研究を行った。Vinylcyclopropanes誘導体は、遷移金属触媒により容易に1,3-転位をおこす。しかし、オレフィンのβ位に大きな置換基がある場合には、立体障害のために1,3-転位はおこりにくくなり、その結果、electrophilic olefinと反応し環化付加生成物を与える。硫黄原子上にキラリティを有するdimethyl(Ss)-2-[2-(t-butoxy-carbonyl)-2-(p-toluenesulfinyl)vinyl]cyclopropanedicarboxylateにパラジウム触媒(Pd(PPh_3)_4)の存在下、acrylonitrileを作用すると環化生成物、dimethyl(3R,4R,Ss)-3-cyano-4-[2-(t-butoxycarbonyl)-2-(p-toluenesulfinyl)vinyl]cyclopentanedicarboxylateをジアステレオ選択的に与える。環化付加生成物の立体化学をNOEを用いたNMRスペクトルの解析により決定した。その結果、本反応は完全に立体選択的に進行していることがわかった。本反応は、通常1座ホスフィン配位子の存在下でおこるが、2座ホスフィン配位子存在下では進行しにくい。これに対して、先の基質のスルフィニル基をスルホニル基に変えた化合物は、2座ホスフィン配位子の存在下でも反応が進行し、(-)-BINAPをキラル配位子として用いると不斉環化付加反応をおこし、対応する環化付加生成物の光学活性体を与える。本不斉環化付加反応の機構を考察し、キラルスルフィニル基とパラジウム触媒との関わりを考察し、その不斉誘起機構を推定した。
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